『この人』 再興第101回院展で日本美術院賞(大観賞)を受けた広島市立大准教授 前田力さん
17年1月24日
絵筆にヒロシマへの思い
「憧れの賞。認められた喜びをかみしめると同時に、自分が信じた道を貫いていいんだと確信した」
日本美術院の再興第101回院展に出品した「憂いの街」が、最高賞に当たる日本美術院賞(大観賞)に輝いた。広島市中区の福屋八丁堀本店と南区の広島駅前店で開催中の巡回展で、八丁堀本店会場に展示されている。
受賞作は、かつて軍港として栄えた呉と被爆地広島とを再構成した心象風景だ。呉の製鉄所を背に、力強く走る広島の路面電車。薄暗い画面に鮮烈な赤が差す。手前には現代に生きる子ども。希望の象徴だが、表情はどこか憂いを帯びる。「主張を前面には出さないが、根底にある反戦や平和といったテーマがにじみ出れば」
小学3年の時の記憶が原点にある。教員だった父に連れられ、千葉から広島を訪れた。原爆資料館(中区)を巡り、強烈な熱線で人影が残った石などに衝撃を受けた。漫画「はだしのゲン」を読んだり、本や資料を調べたりして、ヒロシマを学んだ。
東京芸術大と同大学院で日本画を学び、3年前、広島市立大准教授に着任。子ども時代からの関心に直結する地への赴任は、「願ったりかなったりだった」と語る。
被爆地に身を置き、後進を育てながら、街を歩いてテーマを深める。空を見上げ、「ああ、この上空で原爆がさく裂したんだ」と思いを巡らせる。「上っ面ではなく、しっかり取材して作品にしていきたい」
千葉県佐倉市出身。広島市安佐南区で、同じく日本画家の妻と暮らす。(森田裕美)
(2017年1月24日朝刊掲載)