×

ニュース

オスプレイ岩国陸揚げ 反発無視に地元硬化 

 「国との信頼関係が崩れかねない」―。米海兵隊岩国基地(岩国市)に垂直離着陸輸送機MV22オスプレイが陸揚げされた23日、岩国市の福田良彦市長は悔しさをにじませた。地域の発展と住民の安全を考えながら国策へ対応してきたが、地元の反発を無視するような先行搬入を目の当たりにし、これまで米軍再編に協力的だった態度を硬化させた。

 同日午前5時すぎ、基地を対岸に望む岩国市尾津町の市地方卸売市場の2階事務所。福田市長は望遠鏡をのぞき、夜明け間もない海に現れた巨大な船影をにらみつけた。

 オスプレイを積んだ輸送船は接岸後、ただちに陸揚げを始め、夕方までに全12機が基地内に姿を現した。

 「私は国の安全保障政策には協力するというスタンスでやってきた」と福田市長。米軍再編に伴う空母艦載機の岩国基地移転について、受け入れ条件として地域振興策などを求める「現実的対応」を取ってきた。

 基地の街イワクニの発展には国から受け取る交付金などが一定の役割を果たすとし、年末には岩国錦帯橋空港(愛称)の開港も決まっている。

 しかし、相次ぐ墜落事故が判明しているオスプレイの搬入は、最も重視されるべき住民の安心安全に関わる。「陸揚げ自体に反対」と批判してきた福田市長は強行搬入に「国の対応には大きな不信感を抱く。今後のスタンスも変更せざるを得ない」と吐き捨てた。

 この日午後、米軍再編に協力姿勢の岩国市議でつくる議員連盟の会議。非公開での話し合いの後、桑原敏幸会長も「艦載機移転は国防上必要と納得した。だが今回のオスプレイ問題は市民に説明できていない。即刻、米国に帰ってほしい」と批判。福田市長に同調する考えを示した。

 山口県の二井関成知事も今回の事態を受け、今後の国の対応次第では、艦載機移転を含む米軍再編全体への協力姿勢を見直す可能性すら示唆した。

 山口県和木町の古木哲夫町長も「知事の思いと同じ。これまで協力してきたが、今度ばかりは許せない」と話した。

 同県周防大島町の椎木巧町長は「陸揚げは安全が確認された後にすべきだった。地元の主張が聞き入れられないことに無力感を感じる」と悔しがった。

 森本敏防衛相はこの日、激しい抗議運動が展開された地元の様子を関知しないかのように「大きな混乱がなく、ほっとしている」と漏らした。そして、今後もオスプレイの安全性を確認した上で地元自治体への説明を続けると強調した。

 首長たちの思いが揺らぎ、これまで協力姿勢だった在日米軍再編への流れが変わる可能性が基地周辺で広がり始めた。

広島・島根の市町も懸念

 米海兵隊岩国基地に垂直離着陸輸送機MV22オスプレイ12機が陸揚げされた23日、広島県境や低空飛行訓練のルートがある同県北、島根県西部の自治体の首長は一様に安全性への懸念を示し、日米両政府の対応に疑問を呈した。

 大竹市の入山欣郎市長は「安全性について、いまだきちんとした説明はない。国は運用方法などを示してほしい」と強調。日米両政府にオスプレイ配備反対の要請文を2回送った廿日市市の真野勝弘市長は「地元の反対にもかかわらず搬入されたことに憤りを覚える」と述べ、試験飛行阻止へ県や関係自治体と連携していく構え。

 広島市の松井一実市長は当面、今後の動向を見守る考えだ。

 昨年度、米軍機の低空飛行の目撃が800件以上あった広島県北広島町。竹下正彦町長は「オスプレイが飛べば、住民は事故の不安を感じる」。2004年に米軍ヘリが太田川の中州へ緊急着陸した安芸太田町の小坂真治町長も「配備のスケジュールばかりが先行している」と危ぶむ。

 三次市の増田和俊市長は「訓練には絶対反対。国は配備に慎重でなければいけない」と強調。騒音測定器を設置して低空飛行の監視を強める浜田市の宇津徹男市長は「事故で貴重な生命が失われることはあってはならない」とし、配備前提の政府の姿勢を批判した。

 一方、広島県の湯崎英彦知事は「再三の中止要請の中で(搬入が)強行されたのは遺憾」と述べ、日米両政府の対応を非難。安全性が確認されるまでは試験飛行をしないよう国に求める方針でいる。

【解説】 甘い見通し 確執招く

 垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの米海兵隊岩国基地への強行搬入は、地元の山口県、岩国市に国への不信感を増幅させ、国と地方の関係を協調から確執に転じさせた。地元が国防に協力的な自治体であるという国の甘い見通しが生んだ側面も否めない。

 岩国市は在日米軍再編に伴う空母艦載機59機の移転に協力姿勢をみせてきた。愛宕山地域開発事業跡地は米軍住宅用地として国に売り渡した。

 基地との共存路線をとる岩国市がオスプレイの先行搬入を受け入れるだろうと国は見ていたのではないか。国は米国側の方針を追認し「安全性が確認されるまで陸揚げすべきでない」とする同市の要請を拒んだ。「もの言えぬ国」を印象づけ、地元はもちろん、国内各地で不信を招いた。

 米側は「(モロッコや米フロリダ州での)墜落事故の情報は速やかに提供する」(カーター米国防副長官)と説明。安全性に対する日本国内の懸念に理解を示す。

 ただ10月の沖縄配備は、沖縄県民の強い反発もあり、不透明。岩国基地でオスプレイの暫定的運用を懸念する声もある。オスプレイ配備が抑止力向上に不可欠というなら、国はこれまで以上に説明を尽くし、失った信頼を回復する努力が求められる。(酒井亨)

(2012年7月24日朝刊掲載)

年別アーカイブ