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社説・コラム

社説 「共謀罪」法案 名称変えても危惧残る

 またしても浮上したか、との感が拭えない。犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」を含む組織犯罪処罰法改正案を、政府は今国会に提出する方針だ。

 構成要件を改め、名称も「テロ等準備罪」に変えるという。しかし共謀罪を新設する法案はこれまでに3度、廃案となってきた経緯がある。国会では今回も、提出前から激しい論戦が繰り広げられている。

 そのやりとりからは、東京五輪・パラリンピックのテロ対策を大義名分とすることで批判を避け、成立を急ぐ政府の姿勢がのぞく。国民の監視など権力乱用の懸念は拭えていない。法案の提出は考え直すべきだ。

 この新たな立法措置を急ぐ理由として政府は、2000年に国連で採択された国際組織犯罪防止条約を挙げてきた。日本は国内法が未整備として締結していない。締結には共謀罪が必要で、この条約によって初めて、各国と連携したテロ対策を強化できると政府は強調する。

 安倍晋三首相は「条約を締結しなければ、東京五輪・パラリンピックを開催できない」とまで述べ、成立への意欲を示す。しかし、締結には本当に共謀罪が欠かせないのだろうか。

 日本弁護士連合会は、新たに法を作る必要はないと主張する。現行法で対応でき、条約締結も可能という。実際、共謀罪を制定していないまま、条約を締結している国もあるというではないか。だとすれば、これまでの政府側の説明は何だったのかということになる。

 共謀罪でなければ、条約を締結できないとしてきたはずの政府が今度は、構成要件を絞ったテロ等準備罪に衣替えするという。つまりは共謀罪でなくてもよかったのかと、野党側が整合性をただすのも無理はない。

 無論、組織的なテロ犯罪を防ぐ必要性は誰もが認めていよう。世界中から大勢が集まる五輪ともなれば、標的にする集団が現れる恐れはある。「テロ対策が喫緊の課題だ」という首相の発言に異論はない。

 だからといって、国民への監視を強め、思想を取り締まるような社会にすることは許されない。表現や言論の自由といった権利侵害の危険が高まる。

 共謀罪の対象となる犯罪を、政府は「4年以上の懲役・禁錮を定めている罪」としており、その数は676にも上る。

 「対象が広すぎる」との世論や、法案提出に慎重な公明党の意向も酌んで、200~300に減らすよう調整を進めている。これによって公明党は提出容認へと態度を変えるようだ。

 テロ等準備罪は、実行の準備行為があって初めて処罰の対象になるとして、「共謀罪と呼ぶのは全くの誤り」と首相は強弁した。だが、犯行の計画や共謀だけで処罰されるという本質が変わるのかどうか。市民の危惧を晴らすためには、一層の説明が欠かせない。

 テロ対策に絞ったとしているが、新たな名称に添えた「等」には注意を要する。時の政府や捜査機関の拡大解釈によって、適用範囲が際限なく広げられる危険があるからだ。

 処罰の対象とする「組織的犯罪集団」の認定にしても、捜査機関による恣意(しい)的運用の恐れは消えず、企業や市民団体も対象とされかねない。

 危うさの消えぬ法案である。

(2017年1月29日朝刊掲載)

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