×

ニュース

被爆資料集 役立てて 総目録の残部 希望者に

 原爆被災に関する克明な資料集の編さんで事務局を務めた広島市の教育出版社「東方出版」が、半世紀の活動に区切りをつける。主宰する切明悟さんが昨年12月24日、84歳で急逝したためだ。南区の倉庫には、1969~72年に発行された「原爆被災資料総目録」を含む出版物を保管し、希望者に譲っている。

 切明さんと妻の千枝子さん(82)は、中国新聞社の論説主幹だった故金井利博さんが提唱した被災白書作りに参加。被爆資料の散逸を防ぐため、手弁当で集まった研究者や文学者、教師、記者たちと68年、原爆被災資料広島研究会を結成。中区上八丁堀にあった東方出版が最初の事務局となった。原爆遺跡や美術、文学をまとめた69年の第1集、映画や演劇、音楽を調べた70年の第2集、被爆手記を集めた72年の第3集まで編さんに携わった。

 「よい仲間と出会えて夫は幸せでした。ただ、総目録に関わった方々も次々と亡くなり、一つの時代が終わったという気がする」と千枝子さん。46~71年に発表された手記2229編を紹介する総目録第3集は、200冊近く残部がある。

 東方出版は61年、月刊教育誌「家庭と教育」を刊行する目的で切明さんが設立。学校や家庭、地域と共に子育てと向き合ってきた。手掛けた単行本は200冊以上。本は書店に置かず、郵送で直接届ける方式を採用。残部は断裁せず保管し、問い合わせに応じてきた。

 「戦争が終わった時の解放感は大きく、原爆の悲惨さを忘れるほどに未来が輝いて見えた」。切明さんを支えた千枝子さんは振り返る。「でも政治は頼りなく、運動は挫折した。世の中をよくするには教育しかないと、2人で懸命に雑誌や本を出し続けたんです」

 倉庫で保管する総目録第3集や本を「未来のために若い人に役立ててほしい」と願っている。(渡辺敬子)

(2012年7月26日朝刊掲載)

年別アーカイブ