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「トランプ後の世界」池上さん講演要旨 日本 立ち位置考える機会に

 ジャーナリストの池上彰さんが2日、広島市中区の中国新聞ホールで「トランプ後の世界」と題して講演した。米大統領に就任し、保護主義を強めるトランプ氏に対し、日本の自主性が改めて問われると指摘した。講演は、広島広告協会(会長・山本治朗中国新聞社会長)が創立60周年を記念して催した。要旨は次の通り。(小林可奈)

 日本では、大統領選はヒラリー氏で決まりだと思っている人が多かった。というのも、日本のメディアは民主党支持者が圧倒的に多いニューヨークを拠点にするニューヨーク・タイムズなどの情報を重視するからだ。トランプ氏を支持する地方の白人たちの思いが分からないままだった。

 世論調査はヒラリー氏がリードしていた。実際の得票総数もヒラリー氏がトランプ氏を上回った。ではなぜ、トランプ氏が勝ったのか。米大統領選は、有権者が選挙人を選ぶ。大半の州で、最も多い票を得た候補がその州の選挙人全員を確保する。その結果、トランプ氏が選挙人を多く獲得した。

 暴言の多いトランプ氏が選ばれた背景には、地方の白人たちの支持がある。米中西部の田舎町では、産業の衰えとともに多くの白人が失業した。生活が苦しい人たちにとって、トランプ氏は本音を語る政治家に映った。今の状況を変えてくれるのではないかという期待から、トランプ氏の支持に回った。

 一方、なぜヒラリー氏に人気がないのかというと、米国ではベテラン政治家が嫌われるからだ。特に大統領選では新鮮さが求められる。ヒラリー氏は上院議員でオバマ政権では国務長官を務めた。オバマ政権を引き継ぐ姿勢は変化をもたらさないと思われ、支持を得られなかった。

 年配の人や女性にとっては希望の人。圧倒的な人気だ。男性優位の社会の中で、ともに苦労してきたのがヒラリー氏だったからだ。ただ、この支持は若年層には広がらなかった。

 トランプ氏の勝利は世界情勢の一環で起きた。雇用や社会保障の点から、移民への不満が高まっていた英国は、国民投票で欧州連合(EU)離脱を選んだ。自国さえ良ければいいんだという流れが、トランプ氏の勝利につながった。さらにことし、欧州各国で大統領選など大規模な選挙がある。フランスでは移民に強硬姿勢を示す極右政党の勢力が強まり、こうした流れは広がっている。

 トランプ氏は、メキシコとの国境に壁を造ると言っている。この費用はメキシコが出すべきで、メキシコからの輸入品に高い税をかけるとも主張している。このように、ふっかけて混乱させるのがトランプ氏のやり方だ。

 メキシコに進出している日本企業は戦々恐々としている。ただ、もう少し冷静になった方がよい。ピンチの中にチャンスがある。日本はこれまで、米国におんぶにだっこで、思考が停止していた。トランプ氏が大統領となったことを良い機会とし、日本としてどういう立ち位置で臨むべきかを考えていくことが必要だ。

(2017年2月4日セレクト掲載)

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