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中南米発 南半球覆う 非核兵器地帯条約 半世紀 法的禁止への動き先導

 ラテンアメリカ・カリブ地域の非核兵器地帯条約(トラテロルコ条約)ができて14日で50年を迎えた。いわば地域的な「核兵器禁止条約」は、半世紀でアフリカ大陸や東南アジアなど5地域に拡大した。「非核」を実現、維持する努力の蓄積は、核兵器の法的禁止を地球規模に広げようとする最近の国際世論を支えている。(金崎由美)

 この条約は、1967年2月に調印式があったメキシコ外務省に面する広場の名前にちなむ。当初は21カ国が調印。68年4月に発効し、現在は全33カ国が加盟する。核兵器開発や入手、配備を禁止し、原発の軍事転用などの条約違反がないことを定期報告する義務なども定める。

キューバ危機 背景

 条約ができた背景には当時の地域情勢がある。62年のキューバ危機で、米国と旧ソ連の間の緊張は頂点に。「核兵器使用が現実になりかねない」という認識が域内で共有された。

 「国家間の激しい利害対立や、核兵器保有国からの圧力の中、『不可能』と言われた交渉を動かし、非核を選び取った最初の例が中南米だ」。長崎大核兵器廃絶研究センターの中村桂子准教授はそう評価する。

 「交渉や条約維持のプロセス自体が緊張緩和や信頼構築のツールにもなる」。かつて対立し核計画もあったブラジルとアルゼンチンが信頼関係を高めていった例を中村准教授は挙げる。

 条約によって「核兵器はなくすべきだ」という共通認識が地域に浸透することも、非核兵器地帯の意義だとされる。

 被爆者の岡本忠さん(72)=広島市安佐南区=は2013年に12日間、非政府組織(NGO)ピースボートの船で中南米5カ国を巡った。「エルサルバドルでは内務相自身が応対し、(松井一実広島市長が会長を務める)平和首長会議への加盟呼び掛けを快諾してくれた。メキシコでも、大勢の市民が集まり、被爆体験に熱心に耳を傾けていた」。地球の裏側で、核兵器の問題への関心の高さが印象深かったという。

 現在、南半球が非核兵器地帯で覆われ、北半球でも一部で達成された。だが、その先には高い壁がそびえる。日本を含む北東アジアは北朝鮮の核開発問題を抱え、中国とロシアが核兵器を保有。日本は米国の「核の傘」を求める。

 そのような「非核」の地球儀に残る空白を埋めようと、国際的な試みも動きだした。3月下旬、米ニューヨークの国連本部で核兵器の法的禁止を目指す条約交渉が始まる。

「日本 参加すべき」

 ブラジル、アルゼンチンなど中南米6カ国を含む10カ国が昨年5月、国連作業部会で「非核兵器地帯の視点から」と題して「17年の会議開催」を提案したのが発端だった。国連総会に持ち込まれ、賛成多数により採択された。トラテロルコ条約機関の事務局(メキシコ市)は「50年、という節目から約1カ月後に始まる交渉。トラテロルコ条約の加盟国が要となった」と胸を張る。

 日本は、条約交渉の提案に反対票を投じた。岡本さんは「原爆被害を受けた日本は、条約交渉に参加して当然ではないか」。非核兵器地帯の加盟国をはじめ、核兵器廃絶を強く志向する国々との連携を訴える。

非核兵器地帯
 条約により核兵器の製造、実験、配備や使用が禁止された地域。中南米など5地域のほか、南極条約により南極での核実験や放射性廃棄物の処理が禁止されている。

 「非核」を誓う加盟国に対して核兵器の使用や威嚇をしないことを核兵器保有国に約束させる「議定書」が条約の要。米国、ロシア、英国、フランス、中国の計5カ国の議定書批准が完了したのはトラテロルコ条約だけ。

 モンゴルは「非核兵器地位」を宣言している。中東や北東アジアにも条約構想があるものの遅々として進んでいない。特に長崎大核兵器廃絶研究センターは、日本を含む北東アジアの非核兵器地帯の可能性を探る研究を進めている。

(2017年2月14日朝刊掲載)

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