天風録 「船村さんの歌供養」
17年2月20日
新曲のキャンペーンで来社する演歌歌手を、昔はよく取材したものだ。中には船村徹作曲とか星野哲郎作詞とか大御所が手掛けた作品もあった。大事に歌います―。歌手は力込めたが、当方の力不足か脚光を浴びるとは限らなかった▲「兄弟船」「王将」などで知られる昭和、平成のヒットメーカー船村さんが亡くなった。生み出した曲は何千あろうか。いずれにも愛着があったという。「歌供養」と称し、流行しなかった曲を悼む催しを開いていた▲供養には星野さんや石本美由起さんといった作詞家、島倉千代子さんら歌手も多く参列した。曲名を知る人もない無数の歌を慈しみ手を合わせる。その供養は戦争で亡くなった無名の人々への鎮魂も重ねたようだ▲船村さんを音楽に目覚めさせた兄健一さんもその一人。12歳年上の陸軍士官は幼い弟にハーモニカを聴かせた。吹き終わると必ず「軍人にはなるな」と言った。23歳で戦死した兄の無念も、曲作りの原動力だったろう▲星野さんとの名コンビで知られた。「なみだ船」を北島三郎さんに提供して世に出しもした。数々の船村メロディーを永く口ずさむとともに、無名の歌や人に寄せた思いも忘れないでおきたい。
(2017年2月18日朝刊掲載)
(2017年2月18日朝刊掲載)