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社説・コラム

社説 米国とイスラエル 過度な接近 和平遠のく

 東地中海に臨むパレスチナ地域の領有を巡るユダヤ人とアラブ人の争いは、長年にわたって中東紛争の火種となってきた。その難しいパレスチナ問題でも、トランプ米大統領は独自の政策を取るのだろうか。

 アラブ人によるパレスチナ国家を樹立し、ユダヤ人国家イスラエルとの共生を目指す「2国家共存」を、米国は唯一の方策と支持してきた。しかしトランプ氏は、イスラエルのネタニヤフ首相と会談後の記者会見で「双方が望むなら、2国家共存でも1国家でもどちらでも構わない」と言明。「2国家」にこだわらない考えを示した。

 中東和平に向け国際社会も歩を進め「2国家共存」の目標に至った歴史を振り返ると、唐突で乱暴な方針転換に思える。

 イスラエルによるヨルダン川西岸などへの入植地拡大についても「少し差し控えてほしい」とかなり控えめな表現で自制を求めたことが気になる。ブッシュ政権時代のように一部の入植を黙認するのだろうか。

 イスラエル寄りの姿勢はあまりにも鮮明である。オバマ前政権との関係が冷え込んでいたイスラエルからすると、満額回答に近い内容に違いない。一方、パレスチナ自治政府側からは反発が起きそうだ。過激派によるテロを誘発する恐れもある。

 中東和平の仲介役の米国が、片方だけに過剰に肩入れすべきではなかろう。和平交渉に支障を来しかねない。

 もう一つ大きな懸念がある。在イスラエル米大使館の移転問題である。トランプ氏は会見で現在のテルアビブからエルサレムへの移転について、あらためて意欲を示した。注意深く状況を見るという。

 エルサレムはユダヤ教とイスラム教、キリスト教の3大宗教の聖地で、国際的にはイスラエルの首都とは認められていない。もし米大使館をエルサレムに移せば、イスラエルの首都、ひいてはユダヤ教の聖地と認めることになる。イスラム圏の国々から抗議の声が上がるのは目に見えている。少なくとも大使館移転計画は撤回してほしい。

 このようなトランプ氏の政策は、新たな紛争の種をまくことになりかねない。イスラム圏7カ国の市民の入国禁止令にしてもそうだ。イスラム教徒への「敵視政策」と批判されても仕方あるまい。違憲として西部ワシントン州が訴訟を起こし、一時差し止めとなっているが、トランプ氏は来週にも新たな大統領令を発令する方針という。内容によっては再び混乱が広がる可能性もある。

 過激派組織「イスラム国」(IS)などによるテロから米国民を守るため、とトランプ氏は抗弁しそうだ。IS掃討のため、米国防総省がシリア北部への地上戦部隊派遣を検討しているという米国の報道も伝わってきている。

 ただ、中東のテロを根絶したいのなら、パレスチナ問題を乱暴に扱うべきではない。

 米政権内の異論にまず耳を傾けてほしい。ヘイリー国連大使は「2国家」を支持すると表明。マティス国防長官も露骨なイスラエル寄りはアラブ諸国との関係を損ねると懸念する。加えて中東和平を模索してきた各国の意見にも広く耳を傾け、宗教も絡むデリケートな問題に慎重に向き合ってほしい。

(2017年2月18日朝刊掲載)

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