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「いしぶみ」世界へ発信 ポプラ社初の英訳版 旧制広島二中323人原爆死追った本

 旧制広島二中(現観音高、広島市西区)1年生の原爆死を追った書籍「いしぶみ」の英語版が、ポプラ社(東京)から初めて出版された。日本語版は国内で半世紀近く読み継がれてきた。世界へ原爆被害の悲惨さを問い掛ける一冊になりそうだ。(坂本顕)

 二中の1年生は1945年8月6日朝、市中心部での建物疎開作業に動員された。本川の土手が集合場所で、参加した323人全員が亡くなった。「いしぶみ」は遺族の手記を元に、生徒一人一人がどれほど苦しみ、最期を迎えたかを克明に記す。69年に広島テレビが制作したドキュメンタリー番組の草稿を基に著され、70年にポプラ社から出版。2016年末までに約15万部発行された。

 英訳化はポプラ社の社員が提案した。昨年5月のオバマ前米大統領の広島訪問に際し、作家の曽野綾子さんが新聞のコラムで「オバマ大統領が来日したら、その時彼に贈るものは(中略)『いしぶみ』という本の、できれば英訳である」と書いたのを読んだのがきっかけという。

 担当編集者の斉藤尚美さん(39)は「二中の事実は世界ではほとんど知られていない。出版を機に少しでも広まれば」と言う。専門家による英訳では軍歌「海ゆかば」や「疎開作業」などの日本独特の表現に脚注を付け、外国人が理解しやすいよう工夫したという。

 出版を受け、観音高の同窓会は外国の要人に読んでもらおうと、英訳版を購入し、昨年12月末に169の在日外国公館に送った。1月末までに、アルゼンチンなど4カ国の大使館から礼状が届いたという。音堂健治事務局長(66)は「核兵器廃絶の機運が高まってくれれば」と期待する。238ページ、1296円。主な書店で取り扱っている。

(2017年2月20日朝刊掲載)

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