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社説・コラム

社説 退位の各党見解 国民の議論呼び起こせ

 天皇陛下の退位を巡り、衆参両院の正副議長が各党・会派から意見聴取し、それぞれの意見が出そろった。立法府での合意形成が本格化することになる。

 どの党派も、天皇陛下の退位を可能にする法整備が必要という点では一致する。とはいえ法の中身は隔たりが大きい。大島理森衆院議長は「さまざまなことをしながら、汗をかかなければ」と語った。まさにその手腕が問われる局面だろう。

 最大の論点は、法整備を「陛下一代限り」とするのか「恒久制度」をつくるのかだ。自民、公明の与党は政府の有識者会議が示した方向性に沿い、一代限りの特別法の制定を唱える。将来にわたって適当な退位の要件を設けるのは難しいとみるからだ。恒久化を訴える野党第1党の民進党などに歩み寄り、皇室典範の付則に根拠規定を置くことを視野に入れている。

 しかし、こうした歩み寄りが制度の恒久化を訴える側に受け入れられるかどうかは、見通せない。とりわけ合意形成の鍵を握る民進党内では「皇室典範の改正が筋」と譲らない声も強まっている。特別法による退位は、皇室典範で定めるよう求める憲法に触れる恐れがある―。そんな主張からである。

 さらにいえば退位の要件についても各党の見解は異なる。民進党は天皇の意思に基づき皇室会議の議決があることを、退位の要件に挙げる。一方で自民党は天皇の意思を要件とすることに関して「天皇は国政に関する権能を有しない」と定める憲法4条に反するとして否定的だ。

 「一代限り」と「恒久化」の綱引きには、憲法の解釈を巡る複雑な要素が絡む。対立する主張を一つの法制度にまとめる作業は難航が必至といえよう。

 ここで忘れてはならないのは憲法が天皇の地位は「国民の総意に基づく」と定めていることだ。国会の議論を通じて国民の合意形成を図っていくには相当の時間がかかるはずだ。それを考えると政府与党が想定している法整備のスケジュールは、急ぎ過ぎていないだろうか。

 大島議長は3月中旬までに意見をまとめたい意向だ。その後政府は有識者会議を再開し、3月末の最終提言を経て、5月の大型連休前後の法案提出を思い描いている。だが、あと2カ月ぐらいで各党派、そして国民が十分に納得する結論に到達するとは現時点では考えにくい。

 退位の問題を早く決着させ、衆院解散や憲法改正論議が後回しになるのを避けたい―。そんな安倍政権の思惑が透ける。自民党には石破茂元幹事長ら皇室典範改正を求める声もあるが、これまで全議員が参加する会合も開かず、少人数の懇談会で意思決定した。異論を封じるかのような姿勢では困る。

 与党側から「最後は多数決」との声まで聞こえてくる。しかし強引に決める問題ではないことを、肝に銘じてほしい。状況によっては臨時国会での決着も含めて時間をかけて熟議を尽くし、接点を探る必要がある。

 大島議長は民進党などからの要請を受けて、各党派の代表者をメンバーとする全体会議を開く意向を示している。オープンな場で議論を重ねるのが最低条件だろう。加えて国会の外から声を広く吸い上げる手法についても検討し、国民の議論を呼び起こすべきである。

(2017年2月22日朝刊掲載)

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