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社説・コラム

中国新聞 政経講演会 トランプ米新政権でどうなる国際情勢  早稲田大大学院客員教授・春名幹男氏 

予断許さぬ状態は続く

 中国新聞社と中国経済クラブ(山本治朗理事長)は24日、広島市中区の中国新聞ビルで政経講演会を開いた。早稲田大大学院客員教授の春名幹男氏が「トランプ米新政権でどうなる国際情勢」と題し講演。1月に就任したトランプ米大統領の指導力や外交姿勢を解説した。要旨は次の通り。(明知隼二)

 トランプ氏は就任以来、法律に準ずる力を持つ大統領令を次々と出し、一見すると指導力を発揮しているように見える。しかし、必ずしもそうとはいえない。

 例えば、イスラム圏7カ国からの入国を禁じた大統領令。入国管理を担当する国土安全保障省の長官の了承を得ていない上、大統領令の中では2001年の米中枢同時テロに触れ、テロリストの入国を防げなかったとして国務省を批判した。政府機関を統括する立場なのに、内輪に敵をつくって自分の正当性を主張する手法を続けている。政権にはこんな手法で運営されている危うさがある。

 また、政府の陣容もいまだに整っていない。政権の局長級以上の主要スタッフ約600人のうち、指名されたのはまだ30人余りで、政府の機能が発揮されていない。右派ニュースサイトの会長を務めていたバノン首席戦略官兼上級顧問は「政府を壊す」などと発言。フリン大統領補佐官が政権発足前に駐米ロシア大使と電話会談したことで辞任した問題も、いまだ影響している。

 こうした政権の外交姿勢はどのようなものなのか。政権は国際戦略をまだ明らかにしておらず、どう動いてくるかは分からない。ただ、中国に厳しく、ロシア寄りだと言われている。その陰には、キッシンジャー元国務長官が指南役を担っているのではないかとみられている。

 米国の外交や安全保障は、クリントン、ブッシュ、オバマの3政権の24年間、うまくいっていない。中国ともロシアとも関係が悪化し、なおかつ両国が近づいたためだとの見立てがある。

 キッシンジャー氏は米中の国交が正常化したニクソン大統領の時代、中国とロシアとの「力の均衡」を重視した。今、ロシアの国内総生産(GDP)は世界12位で、核戦力は強いが経済は弱くなりすぎている。ロシアの経済力を回復させ、均衡を目指しているというのが一つの見方だ。トランプ政権がそんなバランス外交をやりきれるのか、一つの見どころになるだろう。

 日本との関係では、トランプ氏はトヨタ自動車のメキシコへの工場建設、在日米軍の駐留経費負担の問題など、日本批判を繰り返してきた。ただ、今月の安倍晋三首相との首脳会談では、そうした問題への言及はなかったという。

 さらに、マティス国防長官は日本の駐留経費負担について「同盟国のお手本」だと発言した。トランプ氏の発言を間違いだと明言した形だ。マティス氏は米国の伝統的な政策を引き継ぐ立場。米政権は、トランプ氏抜きの外交を展開する可能性がある。これもまた政権が抱える微妙な問題の一つで、目が離せない状態はこれからも続くだろう。

はるな・みきお
 46年、京都市生まれ。大阪外国語大卒。共同通信社ワシントン支局長、特別編集委員などを経て07年に退社。10年4月から現職。著書に「核地政学入門」など。

(2017年2月25日朝刊掲載)

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