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社説・コラム

社説 トランプ政権と核 今こそ被爆国が行動を

 被爆地からすればとんでもない暴論だろう。トランプ米大統領がロイター通信のインタビューに対して、「米国は核戦力で他国に劣るわけにはいかない」と述べた。核保有国としての優位性を保ち、核戦力の強化へ意欲を示した。

 さらにオバマ前政権時代、核軍縮で米国とロシアが合意した新戦略兵器削減条約(新START)についても「一方的な合意」「不公平な取引」として見直しを示唆している。

 発言の真意は明らかでない。大統領が型破りな「口撃」を仕掛けた後で、政府として軌道修正を図る可能性もなくはない。しかし核兵器すら取引の材料として、世界を揺さぶろうというのなら断じて容認できない。

 大統領就任後、核政策について具体的に言及したのは初めてである。オバマ前大統領は「核兵器なき世界」を掲げ、核兵器の近代化を進める一方で、新たな核兵器はつくらないとしてきた。その方針をトランプ氏が大きく転換することを懸念する。

 新STARTへの批判にしても条約の中身を分かっているとは思えない。2010年のロシアとの合意に基づき、米ロはそれぞれの戦略核兵器の配備数を来年までに1550発まで減らすことになっている。双方に同じ制限を課すものであり、どうみても一方的ではない。

 冷戦終結後、米ロ首脳は粘り強く核軍縮の交渉を積み重ねてきた。米国が「相手国と対抗するため核軍拡を」という方向に転じれば、世界は一気に緊迫化する。かつてのような核軍拡競争に舞い戻るリスクをどう考えているのだろう。

 さらにいえば核拡散防止条約(NPT)に加わる以上、核保有国として核軍縮に対し誠実に交渉する義務を負う点を忘れてもらっては困る。

 折しも3月から核兵器禁止条約の制定交渉が国連で始まり、その準備会合を終えたばかりである。米国が核軍拡を再び志向するなら保有国と、核兵器の禁止を求める非保有国の溝がさらに深まるかもしれない。

 もとより国際社会の足並みが乱れ、核軍縮に向けた機運醸成につながるかどうかは予断を許さない状況にある。トランプ政権が何を言おうと、核兵器なき世界への道筋を確かなものにしなければならない。

 ここで問われるのは、被爆国日本の姿勢である。

 トランプ氏の新たな発言について、菅義偉官房長官はおととい「核兵器のない世界を目指すという目標は(日米で)共有している」と踏み込んだ論評を避けた。しかし核を増強しつつ核兵器なき世界を目指すというのでは明らかに矛盾することを被爆国として指摘すべきだ。

 核兵器禁止条約についても、日本政府は準備会合を欠席し、本会合で交渉に参加するかどうかも態度を明確にしていない。またも米国に遠慮しているのかもしれない。これでは被爆国の名が泣く。

 核保有国で唯一、中国は準備会合に参加している。他の保有国や米国の「核の傘」の下にある国々を巻き込み、実効性のある条約制定に向けた戦略を日本こそが描くべきである。

 日本が後ろ向きな姿勢では、世界からまた後ろ指をさされかねない。今こそ行動する責務があることを心してもらいたい。

(2017年2月26日朝刊掲載)

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