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社説・コラム

『書評』 在外被爆者裁判 歩みを本に 広島大・田村名誉教授が編集

 広島、長崎で被爆し、海を渡った在外被爆者は長い間、日本国内にいる被爆者と同等の援護が受けられなかった。医療費や各種手当の支給を定めた被爆者援護法の適用が国内に限られていたためだ。「どこにいても被爆者は被爆者」。在外被爆者たちは司法の場に訴え、少しずつ道を切り開いてきた。

 信山社から刊行された「在外被爆者裁判」は、その道のりをまとめた記録である。裁判を支援してきた広島大名誉教授(行政法)の田村和之さん(74)=広島市東区=が編んだ。

 総説、各説、支援と大きく3編に分け、田村さんに加え、代理人の弁護士や支援団体メンバー、元国会議員ら計9人が執筆。1972年に韓国人被爆者孫振斗(ソン・ジンドウ)さんが被爆者健康手帳取得を求めた裁判から、在外被爆者が現地で受けた医療費の支給を認めた2015年の最高裁判決まで、40年以上で42件に及んだ訴訟の詳細や背景を解説している。

 田村さんは「長い時間をかけ、裁判が国の施策を大きく変更させた。実際の運用や国交のない在朝被爆者への対応など今後の課題も多いが、ここまでの司法の流れを通史として残したかった。多くの人に歩みを知ってほしい」と話している。A5判、296ページ。3024円。(森田裕美)

(2017年2月27日朝刊掲載)

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