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社説・コラム

社説 福島原発の廃炉 まだ入り口にすぎない

 3基がメルトダウン(炉心溶融)した福島第1原発の事故から間もなく6年がたつ。

 原子炉内部の惨状が初めてカメラで捉えられ、国内では史上最悪の原子力災害の実態がわずかながら分かってきた。

 「一歩前進」なのかもしれない。しかし険しく長い廃炉作業の工程を考えると、入り口に立ったにすぎない。未曽有の事故の後始末である。困難な道だが、政府と東京電力は責任を持って課題を着実に克服し、一歩一歩廃炉を進めるしかない。

 廃炉作業で最大の難関とされるのが、1~3号機で溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出し作業だ。まずは原子炉内部の状況把握が必要となる。

 今年に入って2号機では、格納容器内に事故後初めて調査ロボットが入った。極めて高い放射線量を計測し、炉内の破損状況や核燃料のような物質が広い範囲に飛び散っている様子を辛うじて捉えることができた。

 だが、ロボットは障害物に阻まれ、目標としていた圧力容器直下までたどり着けず、デブリの位置や広がり、形状などを直接確認できなかった。

 破損が深刻な1、3号機での調査はさらに難航が予想される。もし、デブリの状況が把握できなければ、取り出し方法を確定することはできない。

 東電と政府は2018年度にも取り出し方法を決め、21年に取り出しを始めるとするが、楽観的すぎるのではないか。

 メルトダウンした原子炉内部は調査さえ難しいほど過酷な環境だ。無理なスケジュールは、作業員らの被曝(ひばく)リスクを高めかねない。ロボット開発など、さらなる技術の進歩が不可欠だ。

 原子炉建屋への地下水の流入などで発生する放射性汚染水もなかなか解決できない。切り札として、氷の壁で地下水を防ぐ「凍土遮水壁」を実施した。しかし、想定通りの効果が得られず、汚染水は増え続けている。

 総量は既に100万トン近くに達し、敷地内の千基のタンクで貯蔵している。一刻も早く効果を見極め、必要なら次善の策を検討すべきだ。後手に回れば、事態は一層深刻になろう。

 敷地内の浄化装置で処理した後の水の扱いも難題だ。現在の技術では、放射性物質の三重水素(トリチウム)が除去できない。低濃度の汚染水はたまる一方である。東電は、海洋放出を含めた処理方法を検討しているが、地元住民の理解を得るのは難しいだろう。慎重な対応が求められる。

 事故の対策費用も膨らみ続ける。経済産業省は昨年末、これまでの見積もりの2倍近い21兆5千億円に引き上げた。

 中でも廃炉にかかる費用は8兆円と4倍強に増えた。デブリの取り出し費用などは含まれておらず、最終的にどこまで膨らむのかは見通しが立たない。

 さらに見逃せないのは、東電だけで負担できないため、増額分の一部を電気料金に上乗せする仕組みを新たに設ける点である。国民の負担を増やすことが本当に必要なのか、国会の場でしっかり議論すべきだ。

 万一、原発で事故が起きれば膨大な処理費用が必要になる。今回の教訓である。大義名分だった「安い電力」という前提が大きく揺らいでいる。なし崩し的に国民につけを回すことがあってはならない。

(2017年3月9日朝刊掲載)

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