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社説・コラム

天風録 「信(よしみ)の道」

 徳川幕府は、「通商の国」と「通信の国」とを分けていたという。貿易だけの相手と一線を画すものは何か。信、すなわち信義にほかなるまい。日韓関係の研究者も、朝鮮通信使の解説文では時に「信(よしみ)を通じる」とルビを振る▲時は移り、通信販売、通信教育と「通信」天国の当世である。居ながらにして、ともすれば指一本動かせば、事足りる。ただし、肝心のよしみは通じているのやら、通じていないのやら▲朝鮮通信使の寄港先だった福山市鞆町、鞆の浦歴史民俗資料館に今、府中市に住む光元次夫さん(70)の人形コレクションが並んでいる。太鼓やラッパを奏でる楽士やひげを蓄えた高官など、張り子や土の100点。経由地から遠く離れた東北産の人形も見える。国じゅうで話題を集めていた証しだろう▲鞆では明日から2日間、通信使にまつわる催しがめじろ押しだ。人形さながらに、あでやかな装束を市民らがまとう行列も出る。春めく潮待ち港の町がより一層、観光客でにぎわいそう▲韓国留学の経験もある光元さんは昨今、ひび割れの目立つ両国関係に胸が痛むと言う。高飛車に角突き合わせる道とは別の、「信」を結び合った来(こ)し方を思い起こしてみる。

(2017年3月10日朝刊掲載)

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