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連載・特集

緑地帯 まち物語の復興力 福本英伸 <6>

 2016年はアニメーションが日本の映画界を揺さぶった1年だった。とりわけ、戦時下の広島や呉を舞台にした片渕須直監督の「この世界の片隅に」には強い衝撃を受けた。福島県浪江町の消防団物語「無念」でアニメ作家気取りでいた小生、後頭部をハンマーで殴りつけられたようだった。

 思ったのは、これは戦後、70年がたったから作ることができたのでは―ということだ。私が尊敬するアニメ作家の木下小夜子氏が、夫の故蓮三氏と約40年前に「ピカドン」という作品を作った時は、「マンガごときで原爆を表現することなどできん」と突き上げられて大変だったそうだ。

 さまざまな思いや事情、物語が複雑に混在したヒロシマ。当時の人々は、一つの作品に要約されることが許せなかったのではないか。対して「この世界の片隅に」は、川の流れが岩を洗うように、70年の歳月が物語の集約に作用したのではないか。そんなことをエンドロールを見ながら思うと同時に、この才能、力が今、福島に向かってもいいのにとも思った。

 ナーバスな問題が山積する福島。人それぞれ、立場も違い、受け止め方はさまざまだ。今は1本で何十万人を振り向かせる作品を作る時期ではないと思う。今は1本の物語より100本の物語だ。農家の物語、酪農家の物語、建築屋の物語、原発作業員の物語…。それぞれの人生にスポットを当て、できる限り多くの人生を記録する。それこそが私の今すべき作業と思った。そのためのツールとして紙芝居は最適だ。(まち物語制作委員会事務局長=広島市)

(2017年3月11日朝刊掲載)

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