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社説・コラム

社説 英国会周辺テロ 「反移民」拡大どう防ぐ

 世界各国から観光客が集まるロンドン有数の地で、白昼にテロが起きた。警官を含めて4人が犠牲になり、負傷者も数十人に上る。現場に居合わせた人はもちろん、市民は相当な恐怖を覚えたろう。断じて許せない。

 実行犯は四輪駆動車で歩道を突っ走り、修学旅行で訪れていたフランスの高校生らを次々にはね飛ばした。車を降りると国会議事堂の敷地内に侵入し、警官を刃物で刺した。

 メイ首相が「首都の心臓部」と言う国会議事堂を狙ったらしい。厳しい警戒をかいくぐっての凶行だけに、衝撃が国内外に走ったのも無理はあるまい。

 とはいえ、決して屈することがあってはなるまい。自由と民主主義、平穏な市民生活を守るため、国際社会も結束する必要がある。

 ちょうど1年前、ベルギーで同時テロが起きている。それに合わせたのだろうか。過激派組織「イスラム国」(IS)の系列ニュースサイトは、自派の兵士が実行したと主張している。ただ、射殺された実行犯との関係はよく分かっていない。組織的な関与があったのか、動機や背景は何か、早期解明のため捜査を急いでほしい。

 実行犯は、英国生まれの「ホームグロウン(自国育ち)」という。数カ月前まで住んでいたバーミンガム市の郊外では、家族と一緒に平穏に暮らしていたそうだ。過激な思想に染まるきっかけでも、何かあったのだろうか。

 数年前には、過激派組織と関係があるとして英国の情報局保安部が調査していた。しかし今は監視対象から外れていたという。その経緯も含め、洗いざらい検証すべきである。

 今回選ばれた武器は車と刃物だった。テロの道具としてチェックするのは、とても難しいだろう。しかも警備の緩やかな、「ソフトターゲット」と呼ばれる場所が狙われた。

 もしや、大型トラックで群衆に突っ込み、86人もの犠牲者を出した昨年7月の南仏ニースのテロに影響されたのだろうか。凶行をどう防ぐか、あらためて難しさが突きつけられた。

 欧州では最近3年間に10件近いテロが相次いでいる。各国で高まっている「反イスラム」や「反移民」の雰囲気が気掛かりだ。先日あったオランダの総選挙では、極右政党が獲得議席で2位に躍進した。第1党にこそならなかったものの、着実に支持者を増やし続けているのは間違いない。

 格差社会がもたらす失業や貧困に不満を募らせる人が増えているからだ。はけ口を移民やイスラム教徒に求め、敵意をむき出しにする風潮が広がる。しかし、そうした乱暴な言動は社会不安をあおるだけである。格差問題の根本的な解決には、到底つながるまい。

 英国でも、昨年6月の国民投票で欧州連合(EU)からの離脱派が多数を占めた背景には、移民に対する抵抗感の高まりも指摘されている。今回のテロが「反イスラム」「反移民」の雰囲気に拍車を掛けないか、強く懸念される。

 警備の強化は、もちろん必要だろう。しかし、不満を募らせ、はけ口を弱者に向けるような土壌を変える、地道な取り組みこそ欠かせない。あらためて肝に銘じておきたい。

(2017年3月25日朝刊掲載)

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