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社説・コラム

『大学力』 「戦争とは何か」追体験 広島経済大プログラム「オキナワを歩く」

記憶の継承 思い新たに

 太平洋戦争で国内最大の地上戦があった沖縄県を、学生たちが3日間、徒歩で巡る。期間中、口にするのは栄養補助食品と飲み物だけ。戦禍から逃げ惑った住民たちが感じたであろう飢えや渇きを追体験する。広島経済大(広島市安佐南区)経済学部の岡本貞雄教授(64)=宗教学=が2006年度、ゼミ生を対象に始めたプログラム「オキナワを歩く」は、ことし2月で11回目を迎えた。

 今回参加したのは、約50人。那覇市から糸満市までの約50キロを歩き、県立一中(現首里高)の男子学徒の歩みをたどった。当時学徒だったお年寄りから「頭上を砲弾が飛び交う中、病人の搬送や通信のために走り回った」との証言も聞いた。現地で紡いできた信頼関係が次の訪問につながるという。

 約20年前、家族とひめゆり平和祈念資料館(糸満市)を訪れた。亡くなった女子学徒は母親と同級生だった。「学徒たちは命をつなぐことができなかった。記憶の中で生き続けてもらうため、継承の取り組みが必要」との思いが募った。

 06年度のゼミ生が偶然、卒業旅行先に沖縄を選んだ。「戦争とは何か、当時の人々はどんな思いだったのかを体感することで、継承への意欲が芽生えるのではないか」。徒歩で沖縄戦にまつわる遺構や慰霊碑を巡ろうと提案した。

 約50キロの道のりは楽ではない。「だからこそ、学生は歩きながら考え続ける」と狙いを説明する。麦飯を炊き、病院として使われた洞窟へ運んでおにぎりを結ぶ「飯上げ」を体験したこともある。現在はゼミ生以外の希望者も受け入れる。

 根底にあるのは、ゼミの一貫したテーマである「命をみつめる」。一人一人の命に焦点を当て、より深い理解を目指している。広島市の原爆遺構を巡る夏休みの集中講義「広島を学ぶ」には、単位互換制度を使って全国の大学生も集う。

 世の中の平和学習には、もどかしさを感じることも多い。「最も警戒するべきなのは、少し話を聞いただけで分かった気持ちになり、簡単に結論を導いてしまうこと」。継承の在り方の模索は続く。(新谷枝里子)

(2017年3月26日朝刊掲載)

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