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社説・コラム

社説 「核兵器禁止」制定交渉 粘り強く保有国説得を

 核兵器のない世界への一歩を刻む好機といえるだろう。きょう米国ニューヨークの国連本部で始まる、「核兵器禁止条約」の制定交渉会議である。被爆地の長年の悲願達成への道筋をはっきり示してほしい。

 予定では、31日までの今回と6~7月の計2回開かれ、各国の政府代表が議論する。核兵器がいかに非人道的かが国際社会に浸透してきたからこそ、出発点に立つことができた。

 「同じような苦しみは他の誰にも味わわせてはならない」。原爆がもたらした身体的、精神的苦痛を訴え続けてきた被爆者らの努力が、少しずつ世界を動かしてきたことは間違いない。あらためて評価したい。

 交渉が目指すのは、非人道的な核兵器の「非合法化」である。使用はもちろん、保有自体を「違法」とすることができれば、核兵器は持てなくなり、全廃というゴールが見えてくる。

 ただ、乗り越えるべきことがまだ多いことも、はっきりしてきた。最大の課題は、核兵器保有国のかたくなな姿勢をいかに崩すかである。今回の会議も、保有国全てが不参加となる見通しだという。そっぽを向かれていては、条約ができても実効性を確保できるか、不安が残る。

 中でも気掛かりは、核戦力強化に意欲を示している米国のトランプ新政権である。先々の目標とはいえ、「核兵器なき世界」を掲げていた前任のオバマ氏に比べ、核軍縮の取り組みは大きく後退しそうだ。

 米国内でも近年、核なき世界の理想は広がりつつあった。共和党か民主党かを問わず、かつての政府高官たちが、核兵器を含む核物質がテロリストの手に渡る危険性などを指摘し、核兵器がある限り米国の安全は守られないと訴えてきたからだ。

 トランプ氏の考えは、そんな時代の流れに逆行している。言葉通りの政策を進めれば、かつてのような核軍拡競争を引き起こして緊張が高まり、世界は一層危険な局面に陥りかねない。

 明らかなのは、核保有国を粘り強く説得しない限り、ゴールにはたどり着けないことだ。どういう道筋を選択するかも、その鍵を握っている。

 条約作りを推進する非政府組織(NGO)や積極的な国の間で有力なのは、保有や使用などを全て即時に禁じる「禁止先行条約」を作り、たとえ非保有国だけであっても発効を目指す考えだ。ただ、保有国との溝がさらに深まる恐れもある。

 保有国を含む全ての国が参加して制定する「枠組み条約」という考えもある。保有国の当初の負担を、核兵器廃絶を法的に誓約してもらう程度にとどめることで、参加を促す方法だ。

 いずれにせよ、今や多くの国が「核兵器は要らない」と考えている。人類の思いに背を向けている保有国をどう説得するか、じっくり議論してほしい。

 何より問題なのは、及び腰の日本政府である。これまで岸田文雄外相は何度も、保有国と非保有国の「橋渡し」役を果たしていくと述べてきた。会議初日に軍縮大使が演説するだけで、お茶を濁すことは許されまい。

 もし保有国が参加しないのであれば、なおさら日本が保有国に決断を迫る役割を果たすべきだ。被爆国としての自覚を持ち核兵器廃絶を目指す強い意志を示すことが今こそ不可欠だ。

(2017年3月27日朝刊掲載)

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