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社説・コラム

社説 政府予算成立 中身の議論 不十分では

 2017年度政府予算がきのう参院本会議で可決され、成立した。第2次安倍政権では14年度に次ぐスピードだ。

 一般会計の総額が97兆4547億円に上り、「過去最大」と形容される巨額予算である。にもかかわらず、中身の議論に時間を十分かけたとは言い難い。

 予算は5年連続で過去最大を更新した。高齢化に伴って膨らみ続ける社会保障費や、右肩上がりの防衛費が要因だ。政府は「経済再生」と「財政再建」を両立させたと自賛するが、借金残高が1千兆円を超す国の身の丈に合っているのだろうか。

 防衛費は5兆1251億円に上る。海軍力を強める中国に加え、ミサイル発射などで国際社会に対して挑発を続ける北朝鮮への対応強化のためである。

 内訳は、最新防衛装備品の調達などが中心だ。「安全保障環境の変化に万全な対応を期す」とする安倍政権の姿勢をそのまま反映したといえる。備えは重要だが、優先順位は整理すべきだろう。大学や企業の研究費助成制度が、前年度の6億円から110億円へと大幅に拡大しているのも気になる。

 最大の歳出項目は、32兆4735億円に上る社会保障費である。所得に応じた高齢者の医療費負担増や高額薬の公定価格引き下げなどの改革を通じて、概算要求より1400億円程度抑えた。膨らみ続ける社会保障費をどうするのか、知恵を絞ったとはいえよう。

 肝心なのは、その予算をどう効果的に使うかである。政府は「1億総活躍社会の実現」に向けた保育士・介護人材の処遇改善に952億円を充てる。人手不足が指摘される保育士の賃金を約2%引き上げた上で、経験が長い場合には上乗せもするという。しかし賃金の微増が保育士不足や、ひいては待機児童を生む社会の構造的な問題の解決につながるとは考えにくい。

 小手先の施策ではなく、抜本的な改革に向け、予算審議でも、もっと突っ込んだ政策論議が欠かせなかったはずだ。

 ほかに、政府が新年度予算で目玉の一つとしているのが返済の必要がない給付型奨学金制度の創設である。多くの先進国が給付型を導入している中、日本では貸与型が基本形で、教育ローン化しており返済に苦しむ若者も少なくない。17年度から一部先行して支給、18年度から本格実施する。対象が住民税非課税世帯の生徒の一部に絞られるなど十分とはいえないものの、現行の制度そのものを見直す契機にすべきだろう。

 国会での議論は、学校法人「森友学園」への国有地の格安払い下げ問題などに大半の時間が割かれた。文部科学省による組織的な「天下り」あっせん、南スーダン国連平和維持活動(PKO)部隊の日報隠しなどを巡る疑惑など、行政の公正さや透明性への疑念を招く問題が相次いで発覚した。国民の関心も高く、看過できない。

 とりわけ森友問題では、国の財布を握る財務省のこれまでの動きに疑問が残る。そんな中、予算が数の力ですんなり成立したことに、納得していない国民も多いのではないか。行政府を厳しくチェックすることは、国の行く末を見据えた骨太の政策論議と並び、国会の重要な責務である。後半国会でも、徹底的な真相解明に努めてほしい。

(2017年3月28日朝刊掲載)

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