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社説・コラム

社説 安保法施行1年 矛盾から目をそらすな

 安全保障関連法が施行され、きのう1年を迎えた。集団的自衛権行使に道を開き、戦後の防衛・安全保障政策を大きく転換させた意味は重い。

 政府は着々と法運用を進めるが、自衛隊が被るリスクなど懸念は深まるばかりだ。反対世論を押し切り、憲法との整合性も取れないまま突き進んでいいものだろうか。

 政府は、国民の不安がよく分かっているはずだ。同法に基づく訓練を、昨年夏の参院選での与党圧勝を見た後で解禁したのは、その証拠だろう。

 昨年9月以降、政府は武器を持って国連職員たちを救出に行く「駆け付け警護」や、地理的な制約を撤廃した「重要影響事態」を想定した後方支援訓練などを相次いで実施している。

 11月には、南スーダン国連平和維持活動(PKO)の派遣部隊に「駆け付け警護」の新任務を付した。今月撤収を決め、今のところ大事には至っていないが、実績づくり優先に見える。

 自衛隊が平時から米軍などの艦艇を守る「武器等防護」の運用も決めた。米国や英国などに燃料や弾薬を融通する協定の改定案も先日、数の力で衆院を通過させている。密接な関係にある国への攻撃で日本が脅かされる危険がある「存立危機事態」を想定し、同法の中核をなす集団的自衛権行使の訓練準備も始めるという。こうした訓練が現実となれば、自衛隊員の危険が増す可能性は否定できない。

 いずれにせよ、「事態」の概念や個々の活動の運用基準はあいまいだ。国民がイメージをつかめないまま、政府判断に委ねられているのが恐ろしい。

 実際、内戦状態の南スーダンでのPKO部隊は命の危機と隣り合わせだったことが、派遣部隊の「日報」で判明した。現地部隊が戦闘に巻き込まれる可能性を記していたにもかかわらず、政府は今なお、それを認めようとはしていない。

 「積極的平和主義」を掲げる安倍政権にとって、PKO拡充は安保関連法の柱の一つだ。今回の実績を基に、今後も任務を拡大させることが危惧される。

 政府は、わが国の安全保障環境の厳しさを挙げ、安保関連法による「抑止力」を強調する。だがその割に、中国の海洋進出や、北朝鮮によるミサイル発射など挑発は続いている。

 北朝鮮への強硬姿勢を見せるトランプ米大統領の就任と相まって、かえって東アジアの緊張を高めている面はないか。

 さらに、過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討に息巻く米政権から、自衛隊への要求のハードルが上がる危険性も否めない。安倍晋三首相は「ISに対する軍事作戦の後方支援はしない」とするが、現実にどこまで拒めるのか疑問が残る。

 そもそも安保関連法は、憲法解釈上認められないとしてきた集団的自衛権行使を、閣議決定による解釈変更で容認したという問題をはらむ。多くの専門家から「違憲」と指摘されながら政府はいまだにきちんと向き合っていない。広島、岡山両地裁など全国で安保関連法を違憲とする集団訴訟が続いている。

 政府は、南スーダンPKOなどで明らかになった矛盾を直視して、検証する必要がある。平和憲法の理念に立ち戻り、国際貢献や安全保障の在り方を根本から見直すべきだ。

(2017年3月30日朝刊掲載)

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