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核利用 揺れる夏 広島 あす原爆の日

 人間は核とどう向き合うべきか。福島第1原発事故から約1年5カ月。その答えを探す道程にある私たちは、核の平和利用の是非をめぐり、揺れる。「核の時代」の始まりとなった広島は6日、被爆67年の原爆の日を迎える。

 平和記念公園(広島市中区)のほぼ中央に立つ原爆慰霊碑。「安らかに眠って下さい 過ちは 繰返しませぬから」。死没者名簿を納めた石棺正面にこの21文字を刻み、1952年8月6日に除幕された。建設から60年の節目となる。

 被爆地の思想を示す碑文の誓い。「ノーモア・ヒバクシャ」の訴えは核戦争の抑止力になったと言っていい。核実験などによる放射線被害に苦しむ世界の被曝(ひばく)者の支援にも動いた。

 しかし、放射性物質をまき散らす原発事故は、唯一の被爆国で起きた。7月、関西電力大飯原発(福井県おおい町)の再稼働を契機に、脱原発を訴えるデモは全国に、広島にも広がる。

 この先、核の平和利用の名の下に、原発を持ち続けるのか、否か。広島市の松井一実市長はことしの平和宣言でその是非には触れない。被爆地もまた、答えを見つけられないでいる。

 この一年、世界の核兵器廃絶をめぐる動きも閉塞(へいそく)感が漂う。2015年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議に向けてウィーンであった第1回準備委員会。核兵器保有国は核軍縮に向けた新たな取り組みを示すことはなかった。

 米国では新型の核実験が繰り返されていたことも分かった。オバマ米大統領が掲げた「核兵器なき世界」は色あせるばかりだ。

 被爆者健康手帳を持つ被爆者の平均年齢は3月末で78・1歳。被爆者の数は21万830人と昨年から8580人も減った。核兵器廃絶を願いながら、老いを深める。

 ヒロシマの声は本当に響いているか。「3・11」以降の世界で、ヒロシマが果たす役割は何か。「過ちは 繰返しませぬから」。祈りに包まれた慰霊碑の前でもう一度、その碑文をかみしめたい。ヒロシマが試されている。(城戸収)

(2012年8月5日朝刊掲載)

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