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絵本「ドームがたり」刊行 ドーム擬人化 ヒロシマ語る

 原爆ドーム(広島市中区)を人に見立てて原爆の悲惨さを伝える絵本「ドームがたり」が刊行された。市内に創作拠点を置く詩人アーサー・ビナードさんの文に、独創的な画風で人気の絵本作家スズキコージさんが絵を描いた。

 語り手の「ドーム」は「うまれたとき、ぼくの頭はこんなスカスカじゃなかった」と、かつての自分を振り返る。ドームは1915年、チェコ人の建築家ヤン・レツルによって設計され、「県物産陳列館」として開館した。牛肉の缶詰といった地元の物産が展示販売されるなど、にぎわう戦前の姿を紹介する。

 そして45年8月6日。「広島さんは、ころされた。ぼくのむねのクマゼミもころされた」。焼け野原の中でかろうじて残ったドームは、れんがや鉄枠がむき出しになり、痛々しい姿に。観光地となった今、世界で繰り返される核実験や放射性廃棄物の危うさにも思いを巡らす。

 物産陳列館、県立商品陳列所、県産業奨励館、原爆ドーム…。ビナードさんは巻末で「これほど名前を変えられた建物が世界にほかにあるのだろうか」と記す。「原爆ドームという名前にドーム自身が納得していないと勝手に想像した」ことが創作の出発点と語る。

 米国出身のビナードさんは学生時代、「原爆は必要だった」「原爆のおかげで戦争が早く終わった」などと繰り返し教わったという。28歳の時に初めて広島を訪れ、ドームのそばに立って、「『正しかった』とか『必要だった』ではなく、『原子爆弾はいったいなんなのか』について初めて考え出した」。

 幻想的なスズキさんの絵はエネルギーに満ち、核兵器の脅威や生命の尊さを伝えている。夢のような世界に導く絵がかえって、72年前にあった現実の出来事を心に深く染み込ませる。大人の胸にも響く絵本だ。玉川大学出版部刊、1728円。(鈴木大介)

(2017年4月6日朝刊掲載)

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