×

ニュース

核禁止条約 対応で差 ひろしまレポート 日本は改善

 広島県は7日、核軍縮、核不拡散、核物質の安全管理の3分野について、2016年の取り組みで36カ国を採点した「ひろしまレポート」を発表した。核軍縮では、3月に米ニューヨークの国連本部で始まった「核兵器禁止条約」の交渉会議へのスタンスにより、非保有国を中心に評価に差が出た。日本は交渉会議の開催に反対したが、一方で核軍縮検証の国際会議を主催したことなどから評価は前年より上がった。(明知隼二)

 13年から毎年、各国の前年の対応に点数を付けて評価しており5回目。対象国は前回と同じで、核拡散防止条約(NPT)で認められた核兵器保有5大国▽事実上保有する4カ国▽非保有の27カ国。県の委託を受けたシンクタンク「日本国際問題研究所」(東京)が、保有状況や削減の取り組み、国連総会での投票行動など、16年の各国の動きを基に3分野計64項目で採点した。分野や核の保有・非保有の状況に応じて満点が異なるため、満点に対する得点の割合(評点率)を示した。

 核軍縮では、5大国の中でロシアが最低の9・0%(前年比1・1ポイント減)。プーチン大統領が核戦力強化に言及するなどし、5大国で唯一評価を下げた。オバマ前大統領が現職として初めて被爆地広島を訪れた米国は21・8%(同1・1ポイント増)だった。事実上の保有4カ国は、保有数の増加や透明性の低さからいずれも5大国を下回った。核実験などを繰り返した北朝鮮はマイナス6・6%(同1・1ポイント減)で、5回連続で最低評価となった。

 非保有国は、禁止条約の交渉開始への賛否で差がついた。交渉開始に向け議論を主導したオーストリアが前年に続きトップの77・1%(増減なし)。交渉開始を求める決議の共同提案に名を連ねたフィリピンは65・7%(前年比5・7ポイント増)、ブラジルは68・6%(同2・9ポイント増)と上昇した。一方、決議案に反対した韓国は37・1%(同7・2ポイント減)。下げ幅は全ての国の中で最大だった。

 日本の核軍縮は66・6%(同0・9ポイント増)。決議案に反対したが、6月に東京で開いた核軍縮検証の国際会議などが評価された。核不拡散は86・9%(同1・6ポイント減)。NPT非加盟の保有国インドと原子力協定を11月に結んだため、36カ国で唯一前年を下回った。核物質の安全管理は70・7%(増減なし)だった。

 レポートは、県の「国際平和拠点ひろしま構想」の一環。県は同日、ホームページで日本語版と英語版、市民向けの小冊子版を公開した。

国際社会の溝 浮き彫り

 核兵器保有国や日本など「核の傘」の下にある国と、法的禁止を求める非保有国の間にある溝は、広島県が7日に発表した「ひろしまレポート」でも浮き彫りになった。

 執筆した日本国際問題研究所軍縮・不拡散促進センターの戸崎洋史主任研究員は、県庁での記者会見で「核兵器の法的禁止を巡る国際社会の亀裂はレポートからも見て取れる」と説明。禁止条約の交渉会議などを踏まえ、「廃絶に向けた転換点になり得るが、トランプ米政権の核政策もまだ明らかではなく、動向は見極められない」と展望した。

 県の「国際平和拠点ひろしま構想」推進委員会の阿部信泰副座長は、保有国を動かすには「世論や政治のさらなるうねりが必要だ」と強調。「70年前の経験に基づく被爆地からの発信の役割は大きい」とし、会員制交流サイト(SNS)など新たな手法の重要性も指摘した。

 県は5月、オーストリア・ウィーンであるNPT再検討会議の第1回準備委員会の会場で、今回のレポートに基づく展示を予定。湯崎英彦知事は「広島だから耳を傾けてもらえる面がある。さらに研究の幅や厚みを増す努力をし、意思決定をする政治指導者への発信を地道に継続したい」と述べた。(明知隼二)

<各国の核兵器廃絶の取り組み評点率>

国名       核軍縮(%)     核不拡散(%)     核物質の安全管理(%)

5大国
英国※215   25.5(25.5) 87.2(87.2)  61.0(61.0)
フランス※300 23.4(22.3) 85.1(85.1)  63.4(63.4)
米国※7000  21.8(20.7) 87.2(87.2)  65.9(63.4)
中国※260   13.3(13.3) 68.1(68.1)  53.7(61.0)
ロシア※7290  9.0(10.1) 76.6(76.6)  46.3(46.3)

4カ国
インド       6.4( 6.6) 34.9(34.9)  53.7(48.8)
※100~120                          
パキスタン     2.7( 2.7) 20.9(20.9)   41.5(39.0)
※100~130                         
イスラエル※80  0.0(―1.1) 30.2(30.2)  51.2(39.0)
北朝鮮※10    ―6.6(―5.5)  0.0( 0.0) ―14.6(―4.9)

非保有27カ国
オーストリア   77.1(77.1) 85.2(85.2)  65.9(68.3)
ニュージーランド 74.3(74.3) 90.2(90.2)  65.9(63.4)
スウェーデン   73.1(71.4) 86.9(86.9)  92.7(92.7)
ブラジル     68.6(65.7) 70.5(70.5)  68.3(68.3)
メキシコ     68.6(68.6) 82.0(82.0)  73.2(73.2)
日本       66.6(65.7) 86.9(88.5)  70.7(70.7)
スイス      66.0(65.7) 82.0(78.7)  75.6(75.6)
チリ       65.7(62.9) 85.2(85.2)  73.2(70.7)
カザフスタン   65.7(62.9) 77.0(77.0)  63.4(63.4)
フィリピン    65.7(60.0) 82.0(78.7)  68.3(56.1)
南アフリカ    60.0(62.9) 83.6(83.6)  61.0(61.0)
インドネシア   58.6(58.6) 78.7(78.7)  70.7(48.8)
ナイジェリア   58.6(58.6) 73.8(73.8)  51.2(39.0)
アラブ首長国連邦 57.1(54.3) 73.8(73.8)  65.9(65.9)
(UAE)
カナダ      53.7(52.9) 85.2(85.2)  78.0(78.0)
オーストラリア  50.9(50.0) 91.8(91.8)  75.6(78.0)
エジプト     45.7(48.6) 60.7(59.0)  31.7(26.8)
オランダ     45.1(42.9) 90.2(90.2)  78.0(75.6)
ノルウェー    45.1(48.6) 88.5(88.5)  68.3(68.3)
ドイツ      43.7(40.0) 91.8(91.8)  68.3(68.3)
イラン      42.9(42.9) 59.0(47.5)  22.0(14.6)
ベルギー     40.9(40.0) 88.5(88.5)  70.7(63.4)
韓国       37.1(44.3) 83.6(83.6)  90.2(87.8)
ポーランド    37.1(35.7) 85.2(85.2)  73.2(56.1)
サウジアラビア  34.3(34.3) 59.0(59.0)  43.9(43.9)
シリア      24.3(30.0) 34.4(34.4)   4.9( 4.9)
トルコ      22.9(24.3) 82.0(82.0)  65.9(63.4)

国名は核軍縮分野の評点率の高い順。かっこ内は前年の評点率。※は2016年1月時点の推定核弾頭保有数(ストックホルム国際平和研究所調べ)

(2017年4月8日朝刊掲載)

年別アーカイブ