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森氏 記者クラブ特別賞 米兵捕虜の広島被爆死調査

 日本記者クラブは28日、2017年度の日本記者クラブ賞の受賞者を決め、特別賞の一人に広島市西区の被爆者で歴史研究家の森重昭氏(80)を選んだ。日本記者クラブ賞はジャーナリストの松尾文夫氏(83)に贈る。贈賞式は5月29日。

 森氏は8歳の時、爆心地から約2・5キロの己斐町(現西区)で被爆。会社勤めの傍ら、原爆投下時に広島にいた米兵捕虜について調べ、12人が被爆死したと結論付けた。昨年5月には広島を訪れたオバマ米大統領(当時)と抱擁を交わした。今回、調査報道に匹敵する手法や事実に肉薄する粘り強さが評価された。職業ジャーナリスト以外の同賞受賞は初めてという。

 松尾氏は共同通信記者時代から米国報道に携わり、日米首脳による被爆地広島と米ハワイ真珠湾の相互訪問が真の戦後和解をもたらすと訴えてきた。実際、オバマ氏の広島訪問に続き、昨年12月に安倍晋三首相の真珠湾訪問が実現した。

 特別賞には、富山市議の政務活動費不正をスクープしたチューリップテレビの取材チームも選ばれた。(野田華奈子)

森氏が受賞の感想 「被爆者に国境ない」

 森重昭氏に日本記者クラブ賞特別賞に決まった感想を聞いた。(野田華奈子)

  一市民にすぎない私の研究が認められ、こんなにうれしいことはない。
 原爆投下の少し前に広島市の己斐国民学校(現西区)へ転校した。それまで通った基町(現中区)の広島陸軍偕行(かいこう)社付属済美(せいび)国民学校は原爆で全焼し廃校になった。その敷地内に米兵捕虜の遺体があったとの校長手記を後に読んで驚いた。「転校しなければ自分も同じ運命だった」と思ったのが、研究の始まり。被爆者に国境はない。生き残った者の使命感だった。

 呉市沖で撃墜され旧日本軍の捕虜となった元米軍機長のトーマス・カートライトさん(2015年、90歳で死去)とは長く文通を続けた。原爆で同僚6人を失った。受賞を喜んでくれただろう。「平和になるためには互いに胸襟を開くべきだ」との彼の言葉に共鳴する。武力を武力で封じる連鎖が起きかねない今、国同士の対話が何より大切だ。

(2017年4月29日朝刊掲載)

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