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社説・コラム

社説 北朝鮮ミサイル発射 各国は自制の上 圧力を

 北朝鮮がきのう弾道ミサイル1発を発射し、飛行中に爆発して内陸部に落下した。失敗とは断定できず、むしろ制御能力を誇示したとも受け取れる。

 国連安全保障理事会が北朝鮮の核・ミサイル問題を巡る閣僚級会合を開き、ティラーソン米国務長官が北朝鮮への制裁強化を訴えた直後だ。トランプ米政権への示威行動とも取れるものの、朝鮮半島が緊張をはらむ中での極めて危険な挑発行為であって、到底認められない。

 最近の米上下両院議員への説明会でも分かる通り、核放棄を迫るための経済制裁を強め外交による解決を図りたいのは、トランプ政権の本音だろう。

 北上を続ける米原子力空母カール・ビンソンはきのう日本海に入った。不測の事態に備えてはいるが、先制攻撃説が独り歩きすれば、かえって北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)体制を追い込んでしまうとの判断があるようだ。軍司令官も「屈服させるのではなく正気に返らせたい」と発言している。

 ところが、北朝鮮の側は米国の軍事行動について「核戦力強化がいかに正当だったかがあらためて実証された」と受け止めた。平壌の博物館では「米国がわが国に手出しできないのは核抑止力があるからだ」と金正恩氏を称賛する始末である。

 先日の軍事パレードでも労働党幹部が「全面戦争には全面戦争で、核戦争には核攻撃戦で対応する」と威嚇するような演説をするのは、被爆地としては堪えがたい。北朝鮮にとっては核・ミサイルの放棄以外に関係国との対話の道はあるまい。

 中国の動きが鍵を握る。王毅外相は安保理の閣僚級会合で、朝鮮半島の非核化と対話解決の道を堅持する中国政府の方針を重ねて表明した。きのうのミサイル発射については、さらなる挑発行動に対して国営テレビが強い警戒感を示している。

 朝鮮戦争以来の「血盟関係」にある中国も、最近は北朝鮮の核・ミサイルを危険視しているようだ。6回目の核実験に踏み切れば、独自の制裁を科すと警告したことに注目したい。

 中国が北朝鮮への影響力の行使を求める米国に歩調を合わせるのは、前例があるまい。

 これまでなら米朝の「双方の自制」だけを訴え、安保理の経済制裁でも得てして「抜け穴」をつくってきた。トランプ政権が中国のこのような変化を引き出したとすれば、北朝鮮にとっては大きな衝撃に違いない。

 北朝鮮に対しては、東南アジア諸国連合(ASEAN)の外相会議も「重大な懸念」を表明し、安保理決議と国際法を守るよう求めた。米国などを念頭に関係国にも自制を促しており、緊張緩和への一定の役割を果たしてくれるのではないか。

 ただ、米中を軸に国際包囲網が強化される場合、米中協調が米中取引に変わる恐れもあるという。韓国の有力紙、朝鮮日報の社説は「北朝鮮の核実験と大陸間弾道ミサイル(ICBM)試射の凍結という線で、米中が妥協してしまう可能性がなくはない」とも危惧している。

 まずは偶発的なものを含めた軍事的衝突を回避すべく、関係国が自制した上で北朝鮮に圧力をかけ続けることが最も重要だろう。その過程でも、核・ミサイルの放棄を繰り返し求めるべきだ。日本の外交の役割もそこにあるはずである。

(2017年4月30日朝刊掲載)

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