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社説・コラム

社説 辺野古埋め立て開始 いま一度 対話の道探れ

 沖縄県宜野湾市にある米軍普天間飛行場の移設先とされている名護市辺野古の沿岸部で、政府がいよいよ埋め立て工事に取り掛かった。

 石材を投入し、埋め立て海域を囲う外枠を造る。本年度中にも、土砂の投入を始める予定という。このまま工事が進めば、海を元の状態に戻すことが極めて難しくなる。

 1995年の米兵による少女暴行事件を受け、日米両政府が合意した普天間飛行場の移設計画は大きな節目を迎えた。

 既成事実となる工事を急ぎ、「もう後戻りはできない」と反対運動を弱める。それが政府側の狙いのように映る。

 地元の声に耳を傾けようとせず、移設反対の民意を無視して工事を推し進める強引なやり方を認めるわけにはいかない。民主主義や地方自治が揺らぎかねないからだ。

 翁長雄志(おなが・たけし)知事が「許しがたい。環境保全の重要性を無視した暴挙だ」と、政府を厳しく断じたのも無理はない。基地負担の軽減を求める民意を背に、知事権限を駆使して徹底抗戦する手を幾つか準備している。

 工事には、知事権限である「岩礁破砕許可」が必要と主張し、工事の差し止め訴訟の提起を検討している。仲井真弘多(なかいま・ひろかず)前知事による破砕許可の期限はことし3月末で切れているため、埋め立て工事を進めるには許可更新の手続きを取る必要があったとしている。

 しかし政府は、許可の前提となる漁業権を地元漁協が放棄しており、更新はもはや不要と主張し、真っ向から対立する。法で定められた手続きも取らず、「無許可工事」に踏み切ったのは乱暴すぎはしないか。

 県側は、工事でくい打ちやしゅんせつなどが確認されれば、岩礁破壊行為に当たるとみて提訴する方針という。

 翁長知事はさらに、仲井真前知事による埋め立て承認の「撤回」も明言している。

 承認自体に問題があるとして無効にする取り消し処分は、昨年12月の最高裁判決で違法と確定し、県側が敗訴した。だが、承認後の事情の変化を理由に効力を消滅させる撤回処分は可能―との立場である。

 いずれにしても、政府と県の対立が再び法廷に持ち込まれるのは確実だ。ただ、司法判断が下されても、移設問題が決着するとは限るまい。両者の対立を深める恐れも強い。

 辺野古移設問題が最大の争点となった県知事選や名護市長選に加え、国政選挙でも繰り返し、移設に反対する民意は示されてきた。「県内移設は沖縄の基地負担軽減につながらない」との主張は理解できる。

 にもかかわらず「辺野古が唯一の解決策」として地元の意向を一顧だにせず、移設を強引に進めてきた政府の対応にこそ、対立の原因があろう。

 北朝鮮の核・ミサイル開発問題などで、東アジアの安全保障環境は悪化している。日米同盟の重要性が増していることも見逃せない事実である。

 だからといって、過重な基地負担を沖縄に強いている現状から目をそらしていいわけはない。日米同盟を安定的に運用するためにも、沖縄の理解は欠かせないはずだ。

 政府は工事を中止し、沖縄県と協議する道を探るべきだ。

(2017年5月1日朝刊掲載)

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