×

社説・コラム

『言』 一人芝居「憲法くん」 平和のため まだ働きます

◆芸人・松元ヒロさん

 私がリストラされるって本当ですか―。日本国憲法になりきって、誕生までの道のりや改正する危うさを、笑いとともに訴える。一人芝居「憲法くん」を松元ヒロさん(64)は演じ続けている。昨年末には絵本も出版した。「二度と戦争をしないためにも、憲法くんを長生きさせたい」。施行70年の今、憲法くんや笑いに込める願いを聞いた。(聞き手は論説委員・田原直樹、写真・高橋洋史)

  ―トークや身のこなしも軽やかに進めるんですね。
 憲法が50歳になった20年前に作りました。10分弱のネタで、大体ライブの最後にやります。折々の社会風刺で笑わせながら憲法の尊さを語り、前文の暗唱もします。前文は崇高で詩のように美しい。70歳だけど、まだ元気で働けますよ、もっと使って平和な世界にしてください、とメッセージを発信します。

  ―押し付け憲法で、時代に合わないと、改憲派は唱えます。
 日本が焼け野原となった後、手にしたもの。米国が関わったとしても、人類の理想とも言える内容ですよ。「理想と現実が違うのなら、ふつうは現実を変えて、理想に近づけるんじゃありませんか」。憲法くんはそう問い掛けます。

  ―朝鮮半島の危機もあり、改憲論が声高になっています。
 ライブでもネタにしますよ。「北朝鮮が攻撃してくると言う人がいるけど、石油も資源もない国を攻めて何か得がありますか。占領しても皆さんのような人たちが住んでいるし…」

 米国や中国でも権力者が危機を叫ぶのは、政権を守り、力を強めたい時。安倍政権はこの機に改憲を進めたいのでしょう。危機をあおり、陰で得するのは権力者と武器商人なんです。

  ―憲法を何度も改正している国もありますね。
 先日、トルコで改憲が決まって大統領の独裁が懸念されています。改憲で取り返しのつかない事態を招きかねない。憲法とはいわば「国民から国への命令書」。権力を制限するものです。ところが政治家が今、自分たちを縛る憲法を都合よく変えようとする動きがある。警戒しなくちゃいけません。

  ―森友学園問題や「忖度(そんたく)」、五輪…。時事ネタや風刺にあふれ、客席は抱腹絶倒でした。
 歌を披露することもあります。政権が米国に追従し過ぎ、君が代も米国国歌の節で歌わされるというネタです。やゆして笑わすだけでなく、主張も盛り込みます。「思想のない笑いは見たくない」というマルセ太郎さんの言葉を胸に、真剣勝負で風刺と主張をしています。

  ―磨きをかけ、永六輔さんにも認められたそうですね。
 笑わせて主張もする芸人になった、と言ってもらえた。照れて「客の少ない舞台だから」と返すと「客数のせいにしては駄目。本人の度胸の問題です」とぴしゃり。背筋が伸びました。

  ―テレビには出ませんね。
 面白いけど絶対出せない―とテレビ局の人に言われました。政治を風刺する僕の笑いは危ないらしい。米国では俳優も歌手も堂々と政治的な意見を語るのに、日本のテレビでは誰も言わない。やはり忖度ですかね。テレビのサラリーマン芸人になるな、というのが立川談志さんの教え。無難なネタに変えてまで出る気はありません。

 もちろん今のテレビの笑いを否定はしません。でももっと自由に発言、表現していいはず。最近の物言えぬ空気は気味悪くて息苦しいですね。戦前に戻るような感じがします。

  ―政治風刺も今の世の中では難しくありませんか。
 風刺や批判が鈍らぬよう、政治家とは距離を置きます。民主党政権時代、公演に来た安倍昭恵さんと名刺交換しました。経営する居酒屋に行ってネタに、と思ったら政権交代。公演案内も送付しなかった。今度は夫を「笑いのめす」んですから。

  ―永さんから最後のメッセージを受け取ったと聞きました。
 「9条をよろしく」でした。そのバトンをつなぐ使命を感じます。芸人9条の会の活動もその一環。戦争や強権的な国家になれば笑いは封じられます。そうしないために笑いが大事。心と頭を柔らかくし、人を結ぶ力があるんです。風刺の笑いで抵抗し、憲法と平和を守ります。

まつもと・ひろ
 鹿児島市生まれ。法政大法学部政治学科卒。パントマイマーとなり全国を巡る。お笑いにも進出し、88年にコント集団ザ・ニュースペーパー結成。10年間活動した後、独立。政治風刺やパントマイムのソロライブを展開している。芸人9条の会メンバー。絵本「憲法くん」のほか、佐高信氏との共著「安倍政権を笑い倒す」がある。岩波書店編「私にとっての憲法」に随筆を収録。

(2017年5月3日朝刊掲載)

年別アーカイブ