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社説・コラム

社説 教育無償化 改憲論議とは切り離せ

 憲法改正論議の足踏み状態に焦りがあるのか。憲法記念日のおととい、安倍晋三首相は「2020年を新しい憲法が施行される年にしたい」と、踏み込んだメッセージを出した。不戦や戦力不保持を定めた9条1、2項を残しつつ、自衛隊を明文で書き込む考えだという。

 一方で改憲への国民の抵抗感を和らげるつもりだろう。首相はもう一つ意中の改憲項目を挙げた。高等教育の無償化だ。

 メッセージの中で小中学校の義務教育が戦後発展に寄与した点に触れ「(高校や大学など)高等教育も全ての国民に真に開かれたものとしなければならない」と訴えた。方向性としては間違っていない。ただ、なぜ改憲が必要なのか分からない。

 憲法26条を引くと「義務教育は、これを無償とする」とある。対象範囲を高等教育まで広げるには条文を新設しなければならないというのが首相の論法のようだ。だが本当にそうなのか。

 振り返れば7年前、民主党政権が高校授業料の無償化に踏み切った。あの時は改憲しなくても「高校無償化法」という新法施行で実施した。当時の国会審議で無償化を「ばらまき政策」「ザル法」だと猛烈に批判していたのは、当時野党の自民党だったことを忘れてはならない。

 今回の無償化論議の伏線を敷いたのは、かねて公約に掲げていた日本維新の会だ。政府・自民党としては改憲に向けた協力を得るため、相乗りを図ったのだろう。こうした多数派工作を子どもにどう説明するのか。改憲論議と切り離すべきである。

 その上で教育無償化を議論するのは大いに結構だ。日本は国内総生産(GDP)に占める公的教育支出が3%台で、経済協力開発機構(OECD)加盟国で最低水準にある。

 家計へのしわ寄せは大きく、少子化の一因ともされる。子どもの6人に1人が貧困家庭に暮らす。生まれ育った家庭の環境や収入で、学びの機会や質に差があってはならない。

 与野党では既に無償化の議論が活発になっている。首相が年明けの施政方針演説でも改憲のテーマにする可能性をにおわせたからだ。各党の案でやはりネックは、財源問題である。

 自民党の文教族が検討する「教育国債」は大学などの高等教育機関までを無償化とする考えで年5兆円かかる。教育費を出す保護者らの負担は減るが、国債の形を取る以上、次世代へのつけ回しにすぎない。

 自民党内では他にも、若手議員らが保育・幼児教育に対象を絞った「こども保険」構想を提言している。財源は、企業や働く人が払う社会保険料率の引き上げで賄う。子どもがいない世帯なども負担することから、公平性の面で賛否が分かれよう。

 民進党は「子ども国債」の発行や、消費税率を10%に引き上げる際の1%分を充てる考えのようだが、目新しさは乏しい。

 各党とも国民負担を求める前に、国の予算全般で無駄な事業をカットし、無償化の財源を捻出してほしい。真の意味で教育の質向上や機会均等を目指すには貧困問題や格差社会など足元の課題と向き合うのが先だ。

 きょうは「こどもの日」。教育は未来への投資でもある。改憲ありきのテーマ設定や選挙目当てではなく、与野党の垣根を越えて真剣に考えてほしい。

(2017年5月5日朝刊掲載)

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