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社説・コラム

『潮流』 2020年に向けて

■論説副主幹・宮崎智三

 大量の化学兵器が使われた反省からか、第1次大戦後、毒ガスや細菌の使用を禁止する動きが国際的に高まった。1925年に実を結んだジュネーブ議定書である。

 報復として使う権利を留保したいと主張する国もあった。米国に至っては「化学兵器は人道的な兵器」と禁止に反対したという。通常兵器より死亡率が低いとの理屈らしいが、あまりの暴論に言葉を失う。

 化学兵器は20年前、使用だけでなく開発や貯蔵、保有も含めて禁止する条約が発効した。シリアで使われるなど課題はあるが、もはや流れが逆戻りすることはあるまい。

 となると、次は核兵器だろう。3月に国連本部で「禁止条約」の制定交渉会議が開かれた。早ければ6月からの次の会合で成案が採択されそうだ。核兵器なき世界という被爆地広島の悲願への一歩となる。

 大変なのはむしろ、条約ができてからではないか。核兵器を持つ国をどうやって説得するか。簡単には進みそうにない。とりわけ米国のトランプ政権からは、思わぬ屁理屈(へりくつ)が出てくるかもしれない。

 それだけに、12日までウィーンで開かれている核拡散防止条約(NPT)再検討会議の準備委員会は重要だ。2020年に開かれるNPT再検討会議の成否の鍵を握るだけではない。禁止条約の会合に背を向けた米国やロシアなど主な保有国も顔をそろえているからだ。

 「橋渡し役」を自認する日本は、外相が自ら出席する異例の対応だ。保有国と非保有国との溝を埋めるため、双方から有識者を招く「賢人会議」の設立など具体案も示した。禁止条約の会合に参加せず国内外から浴びた批判を意識したのだろうか。できること、やるべきことはまだあるはずだ。広島からも、政府の言動に厳しい目を向けているのを忘れてもらっては困る。

(2017年5月6日朝刊掲載)

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