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社説・コラム

社説 巡航ミサイル導入検討 憲法論議 避けて通れぬ

 政府が巡航ミサイルの将来的な導入に向けて本格検討に入った。弾道ミサイルの発射を繰り返す北朝鮮の脅威が新たな段階に入ったと見なして、いわゆる「敵基地攻撃能力」の保有を目指すのだろうが、「専守防衛」という戦後日本の防衛の基本方針から逸脱しかねない。先制攻撃とも背中合わせであって、憲法論議は避けて通れまい。

 巡航ミサイルは主にジェットエンジンで推進、誘導する有翼ミサイルで、艦艇などから発射する。低空飛行するためレーダーに捕捉されにくい上、射程が長く精度が高いことから、相手国の重要施設への限定攻撃に使用される。

 導入を想定するのは米国が保有するトマホークで、最大射程が約2500キロある。4月には、地中海東部の駆逐艦から数百キロ以上離れたシリアの空軍基地を攻撃した。

 このような兵器の保有が自衛の範囲といえるのだろうか。

 国会答弁を顧みれば1956年、鳩山一郎首相(当時)が「座して自滅を待つというのが憲法の趣旨とは考えられない」と前置きし、誘導弾などによる攻撃を防御するのに他に手段がないと認められる限り、法的には自衛の範囲に含まれるとしている。安倍晋三首相もことし1月、この見解を踏襲する認識を示した。

 とはいえ、実際に敵基地攻撃能力を備えることについては、自民党の歴代政権も慎重な姿勢を堅持してきたはずではなかったか。タカ派の中曽根康弘首相(当時)でさえ、他国に脅威を与えたり壊滅的な打撃を与えたりするような装備は持たないと発言し、「長距離ミサイル」をその例に挙げていた。

 政治判断もあったのだろう。中国や韓国など周辺国を刺激する恐れがあり、日本と同盟関係にある米国も慎重な対応を求めてきたところだ。

 万一、敵基地を先制攻撃すれば憲法違反の恐れがある。反撃手段と位置付けても、基地をたたけば撃ち返されるリスクも否定はできない。

 それが巡航ミサイルの本格導入に向けた検討に入るとすれば、朝鮮半島の緊張がかつてなく高まり、トランプ政権下の米国が態度を軟化させた節がある。しかし、まずは偶発的なものを含めた軍事的衝突を回避すべく、関係国が北朝鮮に圧力をかけ続けることが最も重要ではないのか。

 巡航ミサイルの導入には防衛費の大幅な増額が必要になり、国民生活とも無縁ではない。憲法に照らして妥当なのかどうかを含めて、国会では今後十分に議論すべきだろう。

 安倍首相は3日、2020年に改正憲法の施行を目指す考えを示し、戦争放棄を定めた9条の1、2項を残したまま自衛隊を明記する考えをビデオメッセージの形で示した。「自民党総裁」としてのメッセージでもあるが、9条改正は衆参両院の憲法審査会でも議題として真正面から取り上げられていない。国会軽視と言わざるを得まい。

 「自衛隊違憲論」が生まれる余地をなくすべきだとしながら、9条の平和主義の理念を堅持しようという首相のメッセージに、今後、矛盾は起きないのか。国民的議論が欠かせない。野党も明確な姿勢を示す必要があるだろう。

(2017年5月7日朝刊掲載)

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