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社説・コラム

天風録 「『従心』の憲法」

 70歳は「従心」。そう孔子は記した。そこまで年齢を重ねれば、心の赴くままに振る舞っても、道理に外れることはしないという。現実の高齢化社会に生きにくさはあるが、理想として胸に抱いていたい▲日本国憲法が施行70年を迎えた。憲法の下、戦後を歩んできたこの国と国民も従心の境地に至っているはず。国を取り巻く環境がどう動こうとも、礎である国民主権、基本的人権の尊重、平和主義から外れはしないと▲だが70歳の「記念日」に、安倍晋三首相は改憲派会合にメッセージを寄せた。「2020年を新しい憲法施行の年にしたい」。衆参両院の憲法審査会の論議が思うがままに進まないため、突破口にする狙いがあるのかもしれない▲芸人松元ヒロさんにネタ「憲法くん」がある。憲法になりきって大切さを説く。北朝鮮情勢などの現実に合わないから改正する、という声に反論。「理想と現実が違うなら、現実を変え、理想に近づけるものでしょ」▲世論調査では安倍政権下の改憲に過半数が「反対」と答えた。70歳でも元気な憲法くんは言う。「私をどうするか、託しましたよ」。改めるか否かを最後に決めるのは国民だ。道を外さぬ、従心でありたい。

(2017年5月7日朝刊掲載)

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