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社説・コラム

社説 仏大統領にマクロン氏 国民の「分断」解消急げ

 英国の離脱などで先行き不安を抱えていた欧州連合(EU)だが、フランスは残留を望んだといえる。国際社会に安堵(あんど)感が広がったのも当然だろう。

 フランス大統領選の決選投票で、親EUで、中道系のマクロン前経済相が、EU離脱を訴えた極右「国民戦線」のルペン氏を破った。他国でもEUに批判的な政党の動きが活発になっている中、今回の結果が与える影響は小さくなかろう。

 EUはフランスとドイツが引っ張り、通貨統合にまで発展させてきた。経済的恩恵だけが注目されがちだが、それも域内が安定していたからこそである。19世紀後半から幾度も戦火を交えてきた両国が、スクラムを組んで平和な欧州を築いてきた意義は大きい。それを忘れてはいけまい。

 とはいえ、ルペン氏の得票は1千万を超えた。父で初代党首のジャンマリ・ルペン氏が2002年の決選投票で得た550万票から倍増させた。「自国第一」「保護主義」「反移民」などの主張が浸透しているのだろう。背景には、景気回復や雇用拡大が思うように進まず格差が拡大する現状に加え、大量の難民を引き受けてきたEUの姿勢への国民の強い不満や15年以来相次ぐテロへの不安などがあり、国民は分断されている。重く受け止めるべきだ。

 フランスに限ったことではないが、中間層の先細りで左右の極端な意見に流されやすくなってはいないか。これでは、国民の結束はおぼつかない。分断をこれ以上進めないためにも、多様性のある開かれた社会を維持しつつ、格差解消などを急ぐ必要がある。回り道に見えても、社会を安定させれば、EUへの信頼も高まるに違いない。

 当選を決めたマクロン氏は39歳で、フランス大統領としては史上最年少となる。投資銀行勤務などを経て、14~16年にオランド大統領の下で経済相を務めた。選挙戦には今回初めて臨んだ上、議員の経験もなく、行政手腕には不安も残る。

 6月には国民議会(下院)の総選挙がある。超党派の市民運動「前進」を率いているが、支持基盤を確立できるのか。どれほど政策を練り上げても、リーダーシップを発揮して実行しなければ絵に描いた餅に終わる。

 決選投票には、1959年から大統領を担ってきた二大政治勢力の候補は進出できなかった。共和党を中心とする中道・右派と、左派の社会党である。既成政党不信の反映だろう。EUの意義をどう広めるかや移民対策など、大統領の掲げる政策について国会などの場で議論を深めることが欠かせない。効果的な政策に高めて実行してこそ、政治への信頼回復にもつなげられるのではないか。

 被爆地広島から見ると、核を巡る政策が気になる。核兵器について、国際社会は「禁止条約」制定へと動きだしている。独自の核戦力を持つ意味が今どれほどあるのか。しがらみにとらわれず、廃絶を視野に思い切った政策を打ち出す好機と捉えてもらいたい。

 原発に関しては、2025年をめどに電力全体に占める依存度を今の75%前後から50%に下げる考えを示していた。日本を上回る原発大国だけに、世界の流れにも大きな影響を与える。着実に実行してほしい。

(2017年5月9日朝刊掲載)

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