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社説・コラム

社説 米朝対話の可能性 核放棄へ実現の道探れ

 核・ミサイル開発を放棄すれば、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長との首脳会談に応じる―。トランプ米政権が中国政府を通じて、北朝鮮に伝達したことが明らかになった。

 朝鮮半島情勢が近年になく緊迫する中、北朝鮮の態度を軟化させようとする思い切った提案といえそうだ。容易に実現するとは思えない。それでも、軍事的緊張が高まる現状を打開するため「対話」を模索するという意味では、評価できる。

 米国は、国家体制の転換や米軍の進攻など、北朝鮮が求める「四つのノー」も保証するとしている。何とか核放棄させようと考えた戦略なのだろう。

 ただ、米国は日本海への空母派遣など北朝鮮への軍事的圧力を強めたままである。「アメ」と「ムチ」を使って核放棄を迫るトランプ流の「何でもあり」の交渉に、米国人を拘束してまで駆け引きの材料にしようとする北朝鮮がすんなり応じるのだろうか。目が離せない。

 北朝鮮にとって核兵器は国家体制維持のよりどころで、簡単には手放さないとの指摘もある。実際、北朝鮮外務省は「米国の敵視政策と核による威嚇が撤回されない限り、核戦力を強化し続ける」と強調している。

 だがこの言葉を裏返せば、米国が金正恩体制を保証し、進攻しないことなどを確約すれば、「核放棄を受け入れる可能性はある」のかもしれない。

 何より、軍事衝突という最悪のシナリオを避けるため、対話は不可欠である。スタート地点に立てるよう、日本政府や関係国は北朝鮮に働き掛け続けなければならない。

 今回の伝達からは、米国が北朝鮮の後ろ盾である中国を仲介役に、説得工作を本格化させている構図が見えてくる。

 米国は、通商政策での対立を棚上げしてまで中国に歩み寄って北朝鮮から譲歩を引き出す方針のようだ。あくまで対話による解決を求めてきた中国が、本当に北朝鮮への影響力を行使する気があるのかどうか、試しているともいえる。

 むろん中国はその役割を十分自覚していよう。米国が朝鮮半島情勢の緊張を高めれば、「戦争に至る」(王毅外相)との強い危機感を持っているからだ。

 中国はこれまで、北朝鮮には核開発の停止を、米国と韓国には大規模軍事演習をやめるよう提案してきた。今回は、米国に対して、核開発放棄と引き換えの経済援助や、朝鮮戦争の休戦協定に代わる平和協定、国交正常化交渉の開始などを対案として示したとされる。

 北朝鮮が核放棄に応じる可能性は低いと考えているのだろう。提案がすぐ解決に結び付かないにしても、中国の存在は北朝鮮を対話の場に引き出す上で重要だ。努力を続けてほしい。

 日本政府も、今回の動きを前向きに受け止めている。武力に頼るのではなく、対話で事態打開の道を切り開くためと考えれば、当然ではないか。米国側には、核・ミサイル問題と拉致問題の同時解決を重視する立場を繰り返し伝えているという。

 北朝鮮が核放棄を拒否すれば国際社会との対立は続く。関係国が協力して、核を手放すよう粘り強く説得していく必要がある。そうしてこそ、拉致問題など他の課題を解決する糸口も見えてくるのではないか。

(2017年5月10日朝刊掲載)

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