社説 韓国大統領に文氏 対北朝鮮 日米と連携を
17年5月11日
韓国の大統領選挙で最大野党「共に民主党」の文在寅(ムン・ジェイン)氏が勝利し、きのう就任した。朴槿恵(パク・クネ)前大統領の弾劾から罷免、逮捕という混乱の中で外交は機能不全に陥り、朝鮮半島情勢が緊迫の度を増す。北朝鮮との対話姿勢や、慰安婦を巡る日韓合意の見直しなどを選挙戦で訴えてきた文氏。だが、まずは国政を安定させることが求められる。
前回の大統領選で朴氏に敗れた文氏だが、今回は、朴氏による不正疑惑や国政の私物化を追及し、世論が追い風となったことが勝因となった。就職難や格差に不満を抱く若い世代の支持も集めた。
また北朝鮮に厳しい態度を取ると訴えた保守や中道の候補に対し、融和姿勢を見せたことが奏功した面もある。李明博(イ・ミョンバク)氏と朴氏の保守政権が対話を欠いたため、北朝鮮の核・ミサイル開発が進んだとみる国民の批判票も流れ込んだようだ。
9年ぶりに誕生した革新政権である。しかし社会の亀裂は深く、政党同士の対立も激しい。文氏は「国民全ての大統領となり、新しい国を造る」と意気込むが、国政運営は容易ではなかろう。文氏の母体の、共に民主党は国会では少数与党となる。安定的な政権運営には、中道・保守の取り込みが必要となる。
新政権のかじ取りで、とりわけ注目されるのは北朝鮮政策である。文氏は一貫して、融和的な姿勢を取ると表明。核開発を続けるか、それとも南北で経済協力するかを、対話の中で迫ると述べていた。南北経済協力事業だった開城(ケソン)工業団地の再稼働や金剛山観光の再開を、視野に入れているようだ。
北朝鮮も国際包囲網が狭まる中、文政権に対話攻勢を仕掛けるに違いない。軟化を装い、経済協力を引き出そうとするのではないか。
文氏はきのう、国民に向けたメッセージで「朝鮮半島の平和のため、条件が整えば平壌にも行く」と述べた。しかし南北間の経済協力との引き換えで、北朝鮮に核・ミサイル開発を放棄させられるとは思えない。
強硬路線で北朝鮮の封じ込めを図る、日本や米国、国際社会とも温度差のある対応だ。もちろん対話による解決が重要、最善なのは言うまでもない。だが足並みが乱れるようでは北朝鮮を利するだけになりかねない。
東アジアをはじめ世界の安全保障に関わってくる問題だ。米国や中国、日本など関係国とどう連携していくか。十分に協議し、慎重に進めねばならない。
対北朝鮮で連携していく上において、文氏の対日姿勢が気に掛かる。選挙戦を通して、慰安婦を巡る日韓合意の見直しと再交渉を主張していたからだ。とはいえ国家間の約束である。破棄するなら、国際的信用を失うことも覚悟せねばなるまい。
文氏はまた、昨年7月に韓国が実効支配する島根県の竹島に上陸し、日本側の心証を悪くしてもいる。
そこへデリケートな歴史問題を再燃させるようでは、直面する難題に連携して当たれまい。関係の修復へと踏み出してもらいたい。
慰安婦像の設置を巡り、駐韓大使を一時帰国させるなど日韓関係は冷え込んでいる。両国ともこれ以上、刺激し合うことなく、まずは関係構築に意を注ぐべきである。
(2017年5月11日朝刊掲載)
前回の大統領選で朴氏に敗れた文氏だが、今回は、朴氏による不正疑惑や国政の私物化を追及し、世論が追い風となったことが勝因となった。就職難や格差に不満を抱く若い世代の支持も集めた。
また北朝鮮に厳しい態度を取ると訴えた保守や中道の候補に対し、融和姿勢を見せたことが奏功した面もある。李明博(イ・ミョンバク)氏と朴氏の保守政権が対話を欠いたため、北朝鮮の核・ミサイル開発が進んだとみる国民の批判票も流れ込んだようだ。
9年ぶりに誕生した革新政権である。しかし社会の亀裂は深く、政党同士の対立も激しい。文氏は「国民全ての大統領となり、新しい国を造る」と意気込むが、国政運営は容易ではなかろう。文氏の母体の、共に民主党は国会では少数与党となる。安定的な政権運営には、中道・保守の取り込みが必要となる。
新政権のかじ取りで、とりわけ注目されるのは北朝鮮政策である。文氏は一貫して、融和的な姿勢を取ると表明。核開発を続けるか、それとも南北で経済協力するかを、対話の中で迫ると述べていた。南北経済協力事業だった開城(ケソン)工業団地の再稼働や金剛山観光の再開を、視野に入れているようだ。
北朝鮮も国際包囲網が狭まる中、文政権に対話攻勢を仕掛けるに違いない。軟化を装い、経済協力を引き出そうとするのではないか。
文氏はきのう、国民に向けたメッセージで「朝鮮半島の平和のため、条件が整えば平壌にも行く」と述べた。しかし南北間の経済協力との引き換えで、北朝鮮に核・ミサイル開発を放棄させられるとは思えない。
強硬路線で北朝鮮の封じ込めを図る、日本や米国、国際社会とも温度差のある対応だ。もちろん対話による解決が重要、最善なのは言うまでもない。だが足並みが乱れるようでは北朝鮮を利するだけになりかねない。
東アジアをはじめ世界の安全保障に関わってくる問題だ。米国や中国、日本など関係国とどう連携していくか。十分に協議し、慎重に進めねばならない。
対北朝鮮で連携していく上において、文氏の対日姿勢が気に掛かる。選挙戦を通して、慰安婦を巡る日韓合意の見直しと再交渉を主張していたからだ。とはいえ国家間の約束である。破棄するなら、国際的信用を失うことも覚悟せねばなるまい。
文氏はまた、昨年7月に韓国が実効支配する島根県の竹島に上陸し、日本側の心証を悪くしてもいる。
そこへデリケートな歴史問題を再燃させるようでは、直面する難題に連携して当たれまい。関係の修復へと踏み出してもらいたい。
慰安婦像の設置を巡り、駐韓大使を一時帰国させるなど日韓関係は冷え込んでいる。両国ともこれ以上、刺激し合うことなく、まずは関係構築に意を注ぐべきである。
(2017年5月11日朝刊掲載)