×

ニュース

艦載機移転 8割「達成・進展」 岩国市 国の対策 現状公表

 米海兵隊岩国基地(岩国市)へ7月以降、空母艦載機61機が移転する計画を巡り、市は12日、国に求めた安心安全対策の達成状況を公表した。43項目の要望のうち「約80%が達成または進展中」と評価している。

 この日、市と山口県、国が「岩国基地に関する協議会」を市役所で開催。非公開の協議後、福田良彦市長が記者会見で説明した。

 項目別の評価は、達成21件▽進展中13件▽未達成9件。家屋全体の防音工事の対象区域拡大を求めた項目は、国が来年度、従来のうるささ指数(W値)85以上から80以上に引き下げると回答したため、これまでの「未達成」を「進展中」に見直した。

 岩国基地での陸上空母離着陸訓練(FCLP)の禁止に関連する2項目は、国が硫黄島(東京)に替わる訓練施設の候補地として鹿児島県の馬毛島を検討している点などを踏まえ、「達成」とした。

 一方、米軍関係者による事件事故に絡み、起訴前の身柄引き渡しに関する日米地位協定の見直しや、基地外居住者の届け出制度の創設は「未達成」となっている。

 福田市長は6月の市議会定例会で移転容認の是非を表明する方針で、今回示した安心安全対策の達成度を判断材料の一つとする。福田市長は「100%の達成を目指してきたが、米側との厳しい交渉の中、国の努力は一定に評価できる」と述べた。

 市は21、23日、市内4会場で開く住民説明会でも達成状況を示し、住民の意見を聞く。(松本恭治)

岩国市長、国を一定評価 艦載機移転 要望43項目の達成度公表 未達成分は協議継続

 岩国市が12日に公表した、在日米軍再編を巡り国に求めた安心安全対策43項目の達成状況。福田良彦市長は住宅防音工事の対象拡大などを成果に挙げ、国の姿勢を評価した。一方、米計画で7月にも海兵隊岩国基地(岩国市)への空母艦載機移転が始まるとされる中で、市民団体からは要望が全て達成されていない現状への批判が聞かれた。(馬上稔子)

 「目に見える形で前向きな説明があった。着実な進捗(しんちょく)だ」。国、県との岩国基地に関する協議会の終了後の会見で、福田市長は国側から示された住宅防音工事の拡充を成果として真っ先に挙げた。

 国側の説明によると、家屋全体を対象にする防音工事の対象区域をうるささ指数(W値)85以上から80以上に来年度から広げる。これにより、基地北側の昭和町や同南側の尾津町の一部など約278ヘクタール(約4200戸)が新たに対象となるという。岩国市に特化した施策とも説明した。

 ただ、市が要望しているのは75W区域への拡大で、その他にも未達成の項目は残る。福田市長は「全て満足ではない」とも述べ、今後も協議を続けると明言。会見に同席した中国四国防衛局の菅原隆拓局長も「さまざまな場で市と調整して取り組みたい」とした。

 基地機能の強化に反対する市民団体「瀬戸内海の静かな環境を守る住民ネットワーク」の河井弘志共同代表は「43項目は最低限の要望。市には100%実現しないと容認しないという姿勢を示してもらわないと、市民は安心できない」と力を込めた。

<岩国市が求めた43項目の安心安全対策の達成状況>

◆分野
 要望内容
 評価
 理由

◆治安対策の強化

①警察と憲兵隊によるパトロール強化
 〇
 安心安全パトロールなどを実施中

②街路灯、防犯カメラなどの設置
 〇
 川下地区に防犯灯を設置済み

③基地周辺の各戸にソーラー型の玄関灯を設置
 ×
 -

④脱走兵の通報体制強化
 〇
 2008年5月に日米合同委員会で合意済み

⑤米軍構成員などに対する規律保持や交通安全などの教育
 〇
 セーフティーブリーフィングなどを実施中

⑥基地外居住者の届け出制度の創設
 ×
 -

⑦必要に応じて米軍構成員などの外出や飲酒を制限
 〇
 米側が外出規制などの措置を実施中

⑧米軍構成員などの公務外の事件事故も日米両政府の責任で被害補償
 〇
 日米地位協定に基づき対応

⑨損害賠償手続きに迅速かつ誠意をもって対応
 △
 事務手続きのさらなる迅速化を要望

⑩容疑者の起訴前の身柄引き渡しに関する日米地位協定の見直し
 ×
 -

◆騒音対策の強化

⑪消音施設や防音林の整備など、航空機騒音の軽減対策を推進
 △
 防音林などの整備が未実施

⑫エンジンテストは必ず消音施設を使用
 〇
 15年度にハッシュハウスが整備され騒音軽減を確認

⑬早朝・夜間、土日祝日、盆、年末年始の飛行とエンジンテストを全面禁止
 △
 全面的な禁止を希望するため

⑭学校と地域行事に十分配慮した飛行とエンジンテストをする
 〇
 防衛省から米側に地元の諸行事への配慮を実施中

⑮市街地や産業振興に影響を与える地域の上空を飛行しない
 △
 市街地上空飛行項目の順守を要望

⑯訓練移転について、実質的な効果が表れるよう機数や期間の増加など規模の拡大を図る
 △
 海上自衛隊鹿屋基地(鹿児島県)へのローテーション展開の開始時期が未確定

⑰航空機騒音をはじめ、基地に関する住民からの苦情や問い合わせは国で対応
 〇
 防衛省が問い合わせなどを対応中

⑱基地周辺の騒音測定をし、測定データをリアルタイムで公開
 △
 リアルタイムで測定結果の情報公開がされていない

⑲姫子島での爆薬処理時の騒音軽減に必要な措置を講じる
 〇
 米側が適切に対応中

⑳住宅防音工事の予算増額と早期交付、速やかな工事実施
 〇
 防衛省が住宅防音事業の促進を対応中

(21)住宅防音工事の対象区域の指定値を70Wとし、実態に即した指定をする
 ×
 -

(22)外郭防音工事の対象区域を75Wに拡大
 △
 80W以上の外郭防音工事の措置で説明を受けたため

(23)住宅防音工事は、区域指定後の新築・改築住宅も対象とする
 △
 80W以上の告示後住宅の措置が実施されている

(24)防音工事の補助対象施設を事務所、店舗などに拡大
 ×
 -

(25)住宅防音工事で設置した空調機器の機能復旧経費を全額補助
 ×
 -

(26)住宅防音工事で設置した空調機器の電気料金助成
 ×
 -

(27)70W区域の住宅への冷暖房機の設置助成
 ×
 -

(28)テレビ受信料の助成区域の拡大
 ×
 -

(29)恒常的なFCLP施設の建設場所の早期決定
 〇
 防衛省が岩国基地と周辺に同施設を整備しないと回答。馬毛島(鹿児島県)を候補地として、施設整備の調査費などを計上し対応中

(30)岩国基地でFCLPと事前集中訓練を実施しない
 〇
 訓練施設の特定までの間、米国は引き続き硫黄島で実施すると確認

◆環境対策の徹底

(31)クロゴケグモを基地内で完全駆除、撲滅する対策を講じる
 △
 完全駆除・撲滅に至っていない

(32)基地に起因する排水の処理について、万全の措置を講じる
 〇
 水質汚染や漁業への影響がないよう環境法令に基づき適切に処理

(33)消火訓練は基地周辺住民に影響を与えない
 〇
 16年度に消火訓練施設を整備

(34)合同軍事演習、合同訓練などの影響を基地外に及ぼさない
 △
 夜間と早朝の訓練自粛を希望

(35)演習・訓練内容は地元自治体に速やかに事前通報し、住民からの苦情や問い合わせは国で対応する
 〇
 防衛省が適切に対応中

◆地元の意向を尊重する制度の構築

(36)基地の管理・運用は岩国市の意向を踏まえた上で、日米両政府間で協議・交渉する
 △
 滑走路運用時間の見直しを求める市議会決議を踏まえ市が調整中

(37)国と岩国市の定期的な協議の場を設ける
 〇
 岩国基地に関する協議会で実施中

◆その他

(38)基地の機能変更などが生じる可能性がある事案は早期に情報提供し、岩国市の理解を得る
 〇
 防衛省が適切に対応中

(39)航空機の運用は安全の確保に万全の措置を講じる
 〇
 米側が適切に対応中

(40)基地港湾施設への船舶入港時は安全の確保に万全の措置を講じる
 △
 漁船への配慮を希望するため

(41)空母艦載機移転に伴う米軍家族住宅の場所決定は、岩国市に事前に説明し、理解を得る
 〇
 基地内と愛宕山地区に整備

(42)基地周辺の交通渋滞緩和に必要な措置を講じる
 〇
 防衛省が渋滞対策を実施中

(43)障害防止工事、民生安定事業などに関する補助対象範囲の拡大と予算の増額
 △
 防衛省が地域振興策を実施中

※○は達成、△は進展中、×は未達成。FCLPは陸上空母離着陸訓練、Wはうるささ指数

(2017年5月13日朝刊掲載)

年別アーカイブ