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社説・コラム

社説 「共謀罪」法案 強引な採決 許されない

 なぜそんなに急ぐのか。「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案の審議である。与党は、18日にも衆院本会議で通過させる方針だ。中身の議論が不十分なのに、採決すべきではない。

 きのうの衆院法務委員会で、自民、公明両党と日本維新の会は、合意した一部修正案の趣旨説明をした。与党側が維新の主張を取り入れたのは、「強行採決」との印象を和らげたい意図があったからだろう。

 修正案では、取り調べの可視化を検討することなどを規定している。しかし、法案が大きく変わるわけではない。これで、「野党の意見を取り入れ、幅広い合意を得た」とアピールされても、少しも納得がいかない。

 テロなど組織的犯罪への対策が必要なことは、国民も十分承知していよう。それでも今なお根強い反対があるのは、市民団体や労働組合といった一般人も捜査の対象となるのではないかとの懸念が大きいからだ。

 国会でも民進、共産両党など野党が追及し、議論の焦点になっている。

 政府は「一般人が対象となることはあり得ない」とする。一方で「正当な活動をしている団体でも目的が一変して犯罪集団と見なされた場合には、もはや一般人ではない」とも説明する。その線引きはあいまいだ。

 組織的犯罪集団の構成員が2人以上で犯罪を計画し、1人でも実行のための「準備行為」をすれば、計画に合意した全員が処罰されるというのが、この法案である。時の権力によって、拡大解釈されることがないと言い切れるのだろうか。

 この点にこだわるのは、現に市民運動が警察の監視対象となった実例があるからだ。

 岐阜県では、風力発電施設の建設計画に反対する住民の個人情報を警察が収集し、事業者に提供していた。住民側は昨年12月に、プライバシー侵害で精神的苦痛を受けたとして提訴している。警察は住民の動向だけでなく、運動に関係のない知り合いの学歴や病歴などの情報まで伝えていたというから驚く。

 過去には、陸上自衛隊の情報保全隊が自衛隊のイラク派遣反対集会に参加した人の情報を集めていたこともあった。

 法が成立すればこうした監視は、合法的な「捜査」となる。権力に歯向かえば処罰されるのではと恐れるのも当然だろう。

 「準備行為」の範囲もはっきりしていない。そもそも、憲法が保障する思想信条の自由などに深刻な影響を及ぼしかねない法案が、なぜ必要なのかも含めて、腑(ふ)に落ちていない国民は少なくない。

 国会で議論すればするほど問題点があぶり出され、不信感が高まっているのではないか。

 金田勝年法相は、かねて不安定な答弁を続けてきた。与党はそれをごまかすように、衆院法務委に、法務省の刑事局長を政府参考人として常時出席させることを一方的に決めた。質問者が金田法相を指名すると、まず局長が答えるのだ。担当大臣がきちんと説明できないような法案の中身を、国民に理解しろというのは無理がある。

 政府は、数の力で強引に採決に突き進んではならない。国会での追及の背景にある国民の懸念に真摯(しんし)に向き合うべきだ。

(2017年5月13日朝刊掲載)

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