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社説・コラム

社説 北朝鮮ミサイル発射 瀬戸際外交もう通じぬ

 いつまで、愚かしいことを続ける気か。きのう日本海に弾道ミサイルを発射した北朝鮮である。核・ミサイル開発の放棄を求める国々が対話の余地を示す中、これでは話が進まない。

 北朝鮮北西部の亀城(クソン)付近から発射されたミサイルは約800キロ飛び、日本の排他的経済水域(EEZ)外側に落下した。日本政府は全国瞬時警報システム(Jアラート)を使わなかったため、朝のニュースでようやく知った人が大半ではないか。

 新型ミサイルとみられる。あえて飛行距離を抑えるため、通常より高く打ち上げる「ロフテッド軌道」を試したようだ。実射程は4千キロを超すとの見方もある。日本や韓国のみならず米国も無視できず、半島情勢は緊迫の度合いを増すに違いない。

 北朝鮮にすれば国際社会から譲歩や妥協を引き出す、従来の「瀬戸際外交」のつもりだったのだろう。これ自体、もはや限界なのだが、今回はタイミングも悪過ぎる。メンツをつぶされたと感じる国が多いだろう。

 まず韓国である。北朝鮮政策が一つの争点となった先の大統領選では、融和路線を掲げた文(ムン)在寅(ジェイン)氏が当選した。「条件が整うなら平壌にでも行く」としていたが、政権発足わずか4日で冷や水を浴びせられた格好だ。

 「朝鮮半島と国際的平和への深刻な挑戦で強く糾弾する」と強い言葉を選んだ文氏は、北朝鮮が態度を改めるよう求めた。韓国世論も当然厳しくなるだろう。米軍の高高度防衛ミサイル(THAAD)配備を求める声が強まれば、「南北対話」の機運も遠のくだろう。

 顔に泥を塗られたのは中国も同じだ。自ら推進する現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」をテーマとする国際会議が北京で開幕する日である。

 習近平国家主席はミサイル発射に言及しなかったが、国営通信社が韓国報道を引用して速報したのは習指導部のいら立ちの表れだという。後ろ盾だった中国でさえ北朝鮮を十分にコントロールできなくなっている現状が不気味でならない。

 いずれにしても今後の鍵は米国が握っている。これまでトランプ政権は軍事、経済両面で「最大限の圧力」をかけながら、対話の余地も残してきた。核・ミサイル開発を放棄すれば、米朝首脳会談に応じる考えだとの情報も出ているぐらいである。

 米側が最も避けたいのは、北朝鮮が核弾頭を搭載できる大陸間弾道ミサイル(ICBM)を手にすることだ。今回のミサイル発射がどう影響するか分からないが、トランプ政権に瀬戸際外交が通じるとは考えにくい。

 とはいえ軍事衝突は避けねばならない。米国もそのつもりで国連安全保障理事会決議に基づく制裁強化を目指している。北朝鮮が6回目の核実験やICBM発射に踏み切れば石油禁輸などの措置に踏み込む考えだ。

 国際社会が足並みをそろえてこそ、制裁の実効性が高まる。米ホワイトハウスがきのう出した声明に「日本よりロシア領土に近いところに落ちた。ロシアが喜んでいるとは思えない」との一文を入れたのは、北朝鮮の友好国ロシアにも危機感を持たせ、協力を引き出そうとの狙いがあってのことだろう。

 むろん対話の努力は怠ってはならない。「瀬戸際」の北朝鮮に対しては硬軟の手法が要る。

(2017年5月15日朝刊掲載)

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