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「戦争と文学」韓国で講演 広島大・水島裕雅名誉教授

■記者 伊藤一亘

 韓国近代日本文学会の招きで、広島大名誉教授の水島裕雅さん(66)が先月下旬、韓国を訪れ、「戦争と文学」をテーマに講演した。15日に広島市中区の県立図書館であった同館友の会のブックサロンで、韓国・中央大学校で講演した内容とともに、訪れた研究者の反応を紹介した。

 水島さんは韓国で、戦前から戦中、戦後を代表する日本の作家として堀辰雄、原民喜、栗原貞子を取り上げたという。韓国では長年、日本文化流入を規制していたため、日本の近代文学研究が本格化したのも1990年代になってから。原民喜らの作品に初めて接した人も多かったという。

 栗原の「生ましめんかな」「ヒロシマというとき」などの詩を現地で朗読した水島さん。「韓国では原爆は国を救った『いい爆弾』。ヒロシマについて語ることでどんな反応が出るか怖かった」と語った。

 「韓国の研究者や学生たちは、日本が一方的に被害者だと主張していると思っていたらしい。だが、原や栗原の作品を通じ、日本の文学者が世界や人類のことを考えていることに驚いたようだ。日本の詩を読んで心を打たれ感動する若者の姿に、私も感動した」と話した。

 この日のサロンでは「戦争と文学的抵抗」と題し、昭和初期に活動した堀辰雄についても解説した。1904年に生まれ、53年に没した堀は戦争に協力も批判もせず、無関係な作品を発表していたという。

 だが、40年に発表した「木の十字架」には、第2次世界大戦のきっかけとなったドイツ軍のポーランド侵攻を批判したととれる描写があると指摘。「堀の作品の背後に強い抵抗精神を読み解くこともできる」と説明した。

 「戦争に対して文学が直接できることはない」と水島さん。だが、戦争を起こさないために、栗原が戦後間もなく夫とともに掲げた「中国文化聯盟(れんめい)」綱領の存在を挙げ「文化を高めること。特に広島にその責任がある」と力を込めた。

(2008年11月23日朝刊掲載)

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