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社説・コラム

社説 英国で自爆テロ 隙を突く卑劣な犯行だ 

 人気歌手のコンサートを狙った、卑劣な自爆テロが英国マンチェスターで起きた。8歳の少女を含む22人が死亡し、約60人が重軽傷を負った。断じて許すわけにはいかない。

 実行犯の男は、リビア出身の両親のもとに英国で生まれた。過激派組織「イスラム国」(IS)による犯行声明が出されたが、具体的な関係は明らかになっていない。英国の警察や情報機関は事件前から男をマークしていたという。なぜ防ぐことができなかったのだろうか。動機や背景を含めて全容解明を急いでほしい。

 英国政府は、テロ警戒レベルを10年ぶりに最高段階まで引き上げた。再発防止に最大限努力することに加え、テロに屈しない意志を表明するため当然のことだろう。

 爆弾を使った大規模なテロが英国で起きたのは、50人を超す死者を出した2005年のロンドン地下鉄・バス同時テロ以来である。今回の犠牲者の多くが10代の若者だったことや、総選挙中の惨事である点も併せ、英国の政府や国民は大きな衝撃を受けたに違いない。

 ただ、感情的になり過ぎると本質を見失う恐れもある。移民排斥に流されないよう、冷静な対応を望みたい。

 警戒の厳重なロンドンではなく、地方都市が狙われるなど警備の「隙」を突かれたようだ。というのも場所や時間の「隙」を巧みに狙った形跡がうかがえるからだ。コンサート会場に入るには厳しい荷物チェックがあるが、実行犯が自爆した場所は出入り口近くのロビーだった。施設内だが、公共スペースのため荷物はチェックされない。

 しかもコンサートが終わって多くの人が一斉にロビーに出てくるタイミングを見計らったらしい。入場時とは違って警備も緩みがちな時間帯である。そうした「隙」は急いで埋める必要があるが、プライバシーをはじめ人権をいたずらに侵害していいわけではない。

 今回も警備の手薄な「ソフトターゲット」が狙われた。3月にロンドンの国会議事堂周辺で起きたテロなど欧州で相次いでいる。対策も強化されつつあるようだ。ただ、限界はあろう。とりわけ組織と一定の距離を置く「一匹おおかみ」や「ホームグロウン(自国育ち)」によるテロが目立つ中、別の角度からの対策も欠かせないはずだ。

 かねて指摘されているように背景にある社会の問題に目を向けることが何より必要なのだろう。失業による貧困や格差拡大などで現状への不満を募らせたり、絶望感、孤独感を覚えたりする若者たちが増えているからだ。より弱い立場の移民を敵視する排外主義の土壌になっているなら、放置はできない。ISなどに付け入る「隙」を与えているようなものだ。社会を分断し、暴力をあおるような考え方は許すべきではない。

 若者の雇用環境の改善や機会の均等、格差是正、排外主義の解消など多くの対策が求められる。即効薬ではないかもしれない。それでもテロを生む「隙」を社会からなくしていかない限り、根絶にはつながらない。もちろん英国だけでなく、各国が協力して取り組むことが不可欠だ。26、27日にイタリアで開かれる先進7カ国(G7)首脳会議でも論議を深めてほしい。

(2017年5月25日朝刊掲載)

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