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社説・コラム

天風録 「広島壊滅第一報」

 <春暁や城あらはるる松の上>。正岡子規が一句詠んだ広島城はきのうも多くの観光客でにぎわっていた。若者が目立つのは近年の城ブームも影響しているのだろうか▲天守は原爆で倒壊したが、戦後再建された。その少し南に半地下式のコンクリート建造物が残る。旧日本軍の管区司令部「防空作戦室」跡だ。動員された女学生たちが昼夜を問わず敵機襲来に備え、情報伝達を担った▲「広島が全滅です」。あの朝、かろうじて通じた作戦室の軍用電話で「第一報」を発したのも女学生だった。その一人が岡ヨシエさん。かつて本紙の取材に「外に出てみると街は廃虚だった。堀の土手から似島が見えた」と広島壊滅のさまを語っている▲爆心地から約800メートル。自身は作戦室内にいて命拾いしたが、屋外で訓練中だった級友たちを失う。つらい記憶は被爆50年ごろに語り始めた。初めはストレスからか血小板減少で寝込んだ。それでも証言を続けていた岡さんの訃報がおととい届いた▲生き残った私の使命は、級友たちの冥福を祈り、彼女たちの生きた証しを伝えること―。昨年刊行の手記集にしたためている。その思いは、城を訪れる人たちにも知ってもらいたい。

(2017年5月31日朝刊掲載)

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