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[インサイド] 水上タクシー 観光呼び水に 広島駅-平和公園 訪日増追い風

 太田川水系の川が織りなす水の都・広島市で、川面の旅を楽しめる水上タクシーが運航を始めた。JR広島駅と平和記念公園を結ぶ。原爆ドームと宮島(廿日市市)を往復する「世界遺産航路」など他の水上交通とともに、「観光の呼び水に」と広島県、広島市も後押しする。市の第三セクターが失敗した苦い過去もある太田川クルーズ。インバウンド(訪日外国人客)の急増も追い風に広島名物となり得るか―。(根石大輔)

 広島駅南の猿猴川沿いの多目的広場「川の駅」。定員12人の水上タクシーに乗り込むと、非日常の景色が広がる。水面から見上げるビルに圧倒される一方、河岸の木々や干潟、中州に群がる野鳥など自然も楽しめる。国名勝の縮景園などに残る石段の船着き場「雁木(がんぎ)」は江戸時代からの水運の歴史をしのばせる。平和記念公園の原爆ドームを眺めながら対岸の元安川親水テラスに到着。約30分の船旅だ。

「すぐ乗れる」

 東京から訪れた主婦小杉節子さん(79)は「駅のそばですぐに船に乗れるのが驚き。桜の季節にまた来たい」。折り返し便で駅方面へ向かった岩国市の主婦倉重松子さん(68)は「ゆったりと旅して、駅前でショッピングを楽しみます」。

 新航路は2012年に広島県の湯崎英彦知事と広島市の松井一実市長の会談で構想が浮上。「再開発の進む広島駅と原爆ドーム、宮島を結ぶ水上観光ルート」実現を目指した。県、市は約1億5千万円で川の駅一帯を整備。クルーズ船などの運航実績がある業者に事業化を働き掛けた。

 そして今年4月29日に就航。運営を引き受けたアクアネットサービス(広島市中区)によると、干潮時に浅くなり過ぎる箇所があるため、1日に公園行き7便、川の駅行き6便のダイヤ(6月から5往復)のほぼ半数が欠航し、5月末までの乗客は216人だった。

 同社の岡野圭輔社長(64)は「干潮がネックなのは織り込み済み。運航時間を調整して欠航を減らしたい。体験型旅行は人気で、外国人の需要も見込め、周知が進めば利用増も期待できる」と強調。1年目の目標の乗客1万2千人達成を目指し、PRに力を入れる。

曲折繰り返す

 6本の川が流れる市中心部。水運が栄えた歴史も踏まえ、市や県、国が連携し「水の都」構想を進める。水上交通は柱の一つだが、運営は曲折を繰り返した。

 市は1989年、民間23社と三セクを設立し、元安川と本川で遊覧船を運航。年間7万人を見込んだ乗客は91年度の4万2400人をピークに低迷し、01年度に経営不振で三セクは解散した。同年度に官民団体が広島駅と宮島をつなぐ水上バスを試験運航。干潮時に運航できなくなる課題は当時から指摘されていた。

 こうした試みを下地に現在、アクアネットサービスを含む3事業者が4航路を営む。03年就航の世界遺産航路は、原爆ドーム(元安橋桟橋)―宮島(宮島3号桟橋)間を1日最大15往復。16年は約15万3千人が乗った。三セクの船やルートを継ぐ形で02年から運航する「リバークルーズ」、市内約300の雁木の一部を活用した04年からの「雁木タクシー」も定着した。

 三セク解散から15年余り。水辺や駅前の整備が進み、外国人客が急増するなど条件は一変した。川底を掘るなど多額の費用が要る干潮時の対策は困難だが、市は「県と連携し、玄関口にふさわしい新たなシンボルとして支援する」と説明。川の駅で7月にも、民間委託でイベント開催や飲食の販売を始める。

 広島工業大の福田由美子教授(住環境計画)は「川面からの眺めは広島ならではの宝。水辺のオープンカフェやミニコンサートなどを企画して水の都の多彩な魅力をアピールすることが、水上交通の発展にもつながる」と指摘する。

「水の都」構想
 1990年に国と広島県、広島市でハード中心の「水の都整備構想」を策定。2003年に「水の都ひろしま構想」と改め、水上交通のほか、水辺の景観づくりや流域連携などソフト面重視の内容にシフトした。官民の「水の都ひろしま推進協議会」を02年に設置し、推進計画の策定、具体化に取り組んでいる。県市は12年のトップ会談を機にJR広島駅周辺の事業を強化。15年度に「美しい川づくり」将来ビジョンを策定し、15、16年度に猿猴川一帯を集中整備した。

(2017年6月4日朝刊掲載)

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