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[インサイド] 山口県での早期実施優先 岩国基地リスク懸念 阿武でミサイル避難訓練

 北朝鮮のミサイル発射を想定した住民参加の避難訓練を、4日に日本海側の阿武町で町や国と実施した山口県。3月の秋田県に次ぎ中国地方初で、米海兵隊岩国基地(岩国市)を抱える県として早期実施を優先したという。ただ「在日米軍基地が攻撃対象」と報じられる中、岩国での避難訓練は未定だ。今回の訓練では情報伝達などに課題も見られた。(折口慎一郎、松本恭治)

 「県内には米軍基地があり、朝鮮半島にも近い」。この日の訓練後に県の村田友宏危機管理監は、4月に国が全国都道府県に要請後、最初の訓練が山口となった理由をこう説明した。

防災無線に課題

 県は全19市町に打診。最も早い日程が示され、人口約3400人と県内2番目の少なさで住民への説明もスムーズと見込まれた阿武町を選んだ。花田憲彦町長も「ミサイルがいつどこに飛ぶか分からない。よそ事ではない」と述べた。

 訓練には約280人が参加。このうち小学生や保護者たち約230人は校庭から体育館に約3分間で避難した。伊藤敬内閣参事官は「素早い避難」と評価したが、ミサイル発射を伝える防災無線の音声が聞き取りづらい場所があるなど課題も浮かんだ。

 住民は首をかしげる。参加した会社員久保田匡彦さん(37)は「なぜ基地のある岩国でないのか」。自宅待機した八道友代さん(81)は「爆弾が落ちたら屋内でも安全じゃない」と話した。

 県内19市町のうち阿武町を含む9市町は、国民保護法に基づくミサイルを想定した避難マニュアルを作っていない。一方で岩国市など10市町は策定済みだ。

 岩国市は7月以降、米空母艦載機61機の移転計画があり、完了すれば極東最大級の在日米軍基地となる。同市は4月の早朝に市街地の屋外スピーカーで誤放送をし、苦情や問い合わせが相次ぐ事態もあった。

 「北朝鮮情勢の緊迫化と移転時期が重なり、基地の街で暮らすリスクを初めて実感している」。結婚を機に7年ほど前から岩国で暮らす飲食店員升谷光子さん(38)=同市室の木町=は打ち明ける。市は今月27日、防災行政無線で全国瞬時警報システム(Jアラート)の音声を流す放送訓練を予定するが、升谷さんは「発射から着弾までほとんど時間はない。地下に隠れる所もない」と戸惑う。

各自治体の判断

 防衛省によると、北朝鮮はことし既に計12発のミサイルを発射し、最多だった2016年の23発に迫るペース。米軍基地が北朝鮮の標的となるリスクを4月の記者会見で問われた村岡嗣政知事は「どういう形で攻撃しようと意図を持つかは全く分からない」とした。

 日本大危機管理学部の福田充教授は「地震や津波などのリスクもあり、何を優先して対応するかは各自治体の判断」とした上で「岩国市は攻撃対象となるリスクがあり避難訓練も実施すべきだ」としている。

(2017年6月5日朝刊掲載)

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