×

ニュース

艦載機移転 どう判断 岩国爆音訴訟あすから控訴審 広島高裁 将来の賠償 焦点

 米海兵隊と海上自衛隊が共同で使う岩国基地(岩国市)の騒音被害を巡り、周辺住民654人が損害賠償や夜間早朝の飛行、米空母艦載機移転の差し止めなどを国に求めた岩国爆音訴訟の控訴審が16日、広島高裁で始まる。2015年の一審山口地裁岩国支部判決は騒音を「違法な権利侵害」と認定。過去の騒音被害の一部について国に賠償を命じたが、将来分の賠償や飛行差し止めなどは退けた。米側の計画では早ければ7月にも艦載機移転が始まり騒音の増大が懸念される中、司法判断が注目される。(有岡英俊)

【騒音被害と賠償】
 原告は、国が補助する住宅防音工事の対象となる「うるささ指数(W値)」75以上の指定区域に住む。岩国基地の滑走路は10年5月に沖合へ移設。一審判決は、移設後も「看過できない被害が生じている」としつつ、移設は被害を一定程度軽減させたと判断。原告が求めた慰謝料について、過去に発生した騒音被害に限り約5億5800万円(1人当たり月額4千~1万6千円)の支払いを命じた。

 これに対し、原告側は「W値は平均値にすぎず、基準として判断したのは誤り」と指摘。控訴審では世界保健機関(WHO)のガイドラインなどに基づき、騒音の最大値を重視するべきだと訴える。一審が認めなかった難聴や高血圧などの健康被害も主張する。

 騒音の将来分の損害賠償について、一審判決は沖合移設後の測定結果など十分なデータ蓄積がないうえに、艦載機の移転時期が定まっていないことを理由に退けた。これは、大阪空港の騒音被害を巡る訴訟で「事実関係の変動が予想され、損害が不確定」と判断した最高裁判決(1981年)を踏襲したかたちだ。一方で一審判決は、艦載機移転で「騒音の程度は現時点と比べ高まる」と推認している。

 原告は、艦載機移転で「将来も騒音被害は増大し、継続することは明らかだ」と主張。過去の判例に照らしても将来分を請求できる要件は満たし、原告による騒音調査からも被害を想定できるとする。

【飛行と米空母艦載機の移転差し止め】
 原告側は、垂直離着陸輸送機MV22オスプレイを含めた米軍機と自衛隊機の夜間早朝の飛行、艦載機の移転の差し止めを求めている。一審判決は「国の支配が及ばない第三者行為の差し止めを求めており、空母艦載機移転の差し止めも同様に理由がない」などと退けた。

 米軍と自衛隊機の飛行差し止めは、厚木基地(神奈川県)を巡る行政訴訟で一、二審判決が認めた自衛隊機の飛行差し止めについて、昨年12月の最高裁判決が「高度の公共性がある」と却下。これまで、米軍機の飛行を差し止めた判例はない。

 原告は「(騒音が増える)艦載機の移転を国が認め、不法行為をほう助している」などと強調。国側は、移転後の騒音被害も含め移転が実現していない状況では、考慮の対象にしない姿勢を示すとみられる。

 国が公表したスケジュールでは、艦載機は早ければ7月にも配備が始まる。岩国市の福田良彦市長は23日にも受け入れの是非を表明する見通しだ。原告団の津田利明団長(71)は「艦載機移転で間違いなく騒音は上積みされる。被害の実態を改めて裁判で訴えたい」と話している。

<岩国爆音訴訟の住民・国の主張と一審判決>

①住民側主張
②国側主張
③一審山口地裁岩国支部判決

損害賠償 過去分
①原告はうるささ指数(W値)75以上の指定区域に住み、健康、生活の両面で深刻な被害が発生。受忍限度を超え違法

②W値は近年の現実の騒音状況を反映しておらず、沖合移設後は大幅に軽減しており、受忍限度を超えていない

③騒音の精神的被害をある程度被っている。滑走路の沖合移設前までは相当に強く、移設後はW値を5程度引き下げる騒音の減少があった

将来分
①国は騒音防止対策を講じておらず、被害が続く可能性がある。空母艦載機が移転すれば被害は格段に高まる

②過去の判例に照らせば、将来の不法行為の確実性、賠償内容の確定性に欠けている

③将来にわたり継続されると予測できるほど、測定結果などが十分に蓄積されていない

飛行・米艦載機移転差し止め 米軍機
①激甚な騒音で健康被害を被り、身体的な人格権、生存権が侵害されている。日米安全保障条約などに基づき、国は米軍の岩国基地の使用を制限できる。騒音を高める艦載機移転は差し止める必要がある

②基地には高度の公共性があり、認めるべきではない。米軍機の飛行差し止めは、国の支配の及ばない第三者の行為の差し止めを請求することで不当

③米軍機の飛行は日米地位協定に基づく。請求は支配の及ばない第三者の行為の差し止めを国に求めるもので理由がない

自衛隊機
①激甚な騒音で健康被害を被り、身体的な人格権、生存権が侵害されている。日米安全保障条約などに基づき、国は米軍の岩国基地の使用を制限できる。騒音を高める艦載機移転は差し止める必要がある

②防衛相にゆだねられた自衛隊機運航に関する権限行使の変更や発動を求める請求は不適法

③防衛相にゆだねられた自衛隊機運航に関する権限行使の変更や発動を求める請求を含んでおり不適法

米海兵隊岩国基地
 岩国市中心部に近い臨海部にある米軍基地で、現在の米軍機数は約60機。基地を共同利用する自衛隊機は約30機。国が騒音対策で滑走路を約1キロ沖合に移し、2010年5月に運用を始めた。12年12月に岩国錦帯橋空港が開港し、軍民共用となった。在日米軍再編で米海軍厚木基地(神奈川県)から空母艦載機61機の移転が予定され、極東最大級の基地となる見通し。

(2017年6月15日朝刊掲載)

年別アーカイブ