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住民 不安と理解交錯 岩国市長 艦載機受け入れ表明 トラブルや騒音に懸念

 岩国市の福田良彦市長が、米海軍厚木基地(神奈川県)から同市の米海兵隊岩国基地への空母艦載機の受け入れを23日の市議会本会議で表明した。極東最大級のベースへと変貌するイワクニの選択に、周辺市町の住民からは「ミサイルの標的にならないか」「やむを得ない」などと不安や一定の評価が交錯した。(余村泰樹、加田智之、坂本顕)

 「戦争になれば米軍基地は狙われるかも…」。相次ぐ北朝鮮の弾道ミサイル発射などを念頭に、同市旭町の主婦嶋司衣利子さん(29)は不安な表情を見せる。「でも、子育てにはお金がかかるし。(国の交付金による)給食費の無償化はありがたくもある」

 福田市長は容認表明の中で、在日米軍による抑止力の必要性を強調した。同市由宇町の若松好照さん(87)は「半島情勢が危うい中、日米同盟のためには受け入れざるを得ない」と理解を示す。

 同市の愛宕山地区では、米軍家族住宅の建設が進む。移転完了後には、米兵や家族たち約千人が暮らす見通しだ。近くに住む同市牛野谷町の無職野脇賢二さん(65)は「米兵とのトラブルや犯罪を一番恐れている。新たな交番の設置や防犯灯の整備などの対策をしてほしい」と望む。

 一方、艦載機移転後の騒音予測図でうるささ指数(W値)が70以上の区域が広がるとされる周防大島町。養蜂業の笠原隆史さん(31)=同町東三蒲=は「一番の不安は騒音。昨夜も飛行機の音で寝ていた2歳の娘がぐずった」という。無職川崎寿夫さん(68)=同町小積=は「国の交付金という目先の餌に釣られたのか」と容認判断に疑問を投げ掛ける。

 この日は、沖縄県で太平洋戦争末期の地上戦の犠牲者を追悼する「慰霊の日」でもあった。地元で空襲を経験した岩国市通津の農業清水宏さん(77)は「沖縄の基地負担軽減は必要だが、岩国だけが全部を受け入れるのは疑問。日本全体で分担を考えるべき問題だ」と訴えた。

「背信」「決断を評価」 市議会怒号 市長不信任動議も

 「市民への背信、背任行為だ」―。福田良彦岩国市長が米空母艦載機の受け入れを表明した市議会本会議。反対派議員は市長不信任の動議を出すなど最後まで抵抗を見せ、議場は怒号に包まれた。

 定例会最終日の本会議。淡々と進んだ議案採決などの後、福田市長が報告として、「空母艦載機の岩国飛行場への移転について」と題した文書を読み上げた。約8分間の「容認表明」。続く質疑では、反対派7人が安心安全対策の未達成項目などを取り上げ、激しい口調で市長に詰め寄った。

 これに対し容認派は「精いっぱい努力された」「決断を高く評価する」などと市長を擁護した。やじが飛び交う中、質疑は1時間半に及んだ。

 「動議」―。議長が閉会を告げようとしたその時、反対派議員が声を上げた。市長に対する不信任決議案。昼休憩を挟んで本会議を再開したが、動議を議会日程に追加することは起立少数で否決された。

 「議論もしないのか、ここの議会は」「何を言っているんだ。退場しなさい」。傍聴者と容認派議員の罵声が議場に響いた。後味の悪さを残したまま、定例会は閉会した。(松本恭治)

条件クリア 協議は継続 市長一問一答

 艦載機受け入れ表明後の、福田良彦市長との主な一問一答は次の通り。

  ―受け入れの是非の判断材料や条件などはどう考えたのですか。
 (米軍普天間飛行場の移設見通しなど)4条件はクリアされている。安心安全対策の43項目は80%の進捗(しんちょく)状況。大方の市民の理解も得られるだろうという結論に至った。

  ―住民の不安を払拭(ふっしょく)できたと言えますか。
 課題や地域振興を含めてやり残している部分がある。先頭に立って国との協議を継続する。

  ―住民の健康や命に関わる責任を背負う思いは。
 任期の間は市民の生命、財産、健康を守る責務もある。あらゆる施策を用いて担保をしっかりとしていきたい。今回は市長としての責任の上で判断した。

(2017年6月24日朝刊掲載)

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