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社説・コラム

社説 稲田防衛相の資質 首相はなぜ罷免しない

 とても信じられない発言だった。稲田朋美防衛相は27日、東京都議選の自民党候補の応援演説で「防衛省・自衛隊、防衛相、自民党としてもお願いしたい」と述べ、投票を呼び掛けた。防衛省のトップが自衛隊を政治利用した―。そう受け取られても仕方あるまい。

 稲田氏はその日のうちに撤回したが、それで許される問題ではない。なぜ、すぐ辞任しなかったのだろうか。辞任しないのなら、安倍晋三首相が罷免するのが当然である。

 民進、共産、自由、社民の野党4党は、首相に罷免を要求する異例の声明をまとめ、きのう大島理森衆院議長に臨時国会の召集を首相に促すよう要請した。声明では「自衛隊を私物化している」と断ずる。確かに国民の目に「自民党の自衛隊」と映るような発言をした責任は、あまりにも重い。

 実力組織である自衛隊は、特定の政党や政治勢力から独立していなければならない。厳密な「政治的中立性」が求められる。軍部が政治介入した戦前、戦中を振り返れば当然だろう。隊員の政治活動を制限する自衛隊法を順守し、自衛隊は国民の信頼を得てきた歴史がある。

 それにもかかわらず、自衛隊を統括する防衛相が「自衛隊として」投票を促すとは、非常識にもほどがある。

 5月に安倍首相が憲法9条に自衛隊を明記する文言を加えるよう提案したばかりで、自衛隊の位置づけに国民の関心も高まっている。明記を「ありがたい」とした防衛省の河野克俊統合幕僚長の発言も、自衛官の政治的行為ではないかと批判を受けた。稲田氏は今回の発言が、自衛隊の信用を傷つけ、隊員の信頼を失うことを想像できなかったのだろうか。

 そもそも国務大臣は、国家公務員の特別職に当たる。公務員が地位を利用して投票を促すことを禁じる公選法にも反する恐れがある。「公務員は全体の奉仕者」とうたう憲法にもそぐわない。稲田氏は発言した日の深夜、「誤解を招きかねない」と釈明したが、問題の発言は簡潔で誤解の余地はない。自身の認識の甘さを猛省すべきだ。

 防衛相として適格性を欠く言動はこれまでもあった。南スーダンの国連平和維持活動(PKO)を巡って昨夏に首都ジュバで起きた大規模衝突についての国会答弁もそうだった。「殺傷行為はあったが、憲法9条上の問題になる言葉は使うべきではないことから、(戦闘行為でなく)武力衝突という言葉を使っている」と釈明した。自衛隊の安全より法的整合性を取り繕う姿勢は納得できない。国の安全を任せられるとは思えない。

 安倍首相が稲田氏をかばうことも理解し難い。4月に東日本大震災を「まだ東北で良かった」と語った今村雅弘・元復興相に対しては、失言から1時間足らずで更迭を決断した。しかし政治思想や歴史認識が近い稲田氏には、発言から間もなく続投を指示した。行政の中立性を軽んじ「身内」を優遇する―。加計学園の問題などとも共通する、そうした体質を国民は見抜けないと思っているのか。

 安倍首相の任命責任、さらに続投を指示した責任も問われている。野党が求めるように国会の開かれた場で、首相はきちんと説明する必要がある。

(2017年6月30日朝刊掲載)

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