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連載・特集

変わる岩国基地 「艦載機」容認 <4> 協調 市長交代 「共存」へ加速

 1782票差―。2008年2月の出直し岩国市長選で、前市長の井原勝介氏は大接戦の末に敗れた。当選したのは、米空母艦載機の米海兵隊岩国基地(岩国市)への移転容認派が推した自民党前衆院議員の福田良彦氏。06年3月の旧市での住民投票、合併後の同年4月の市長選と2度にわたり「反対」の意思を示した民意が初めて、「容認」へシフトした。

「兵糧攻め」決着

 「(艦載機移転は)基本的には協力すべきものと認識している」。福田市長は就任直後の施政方針演説でそう述べ、国から財政支援を引き出す考えを明らかにした。その発言は、事実上の容認表明とも受け止められた。

 市の方針転換に国の反応は素早かった。石破茂防衛相(当時)は08年3月の福田市長との会談で、米軍再編交付金の支給と市庁舎の建設補助金(35億円)の交付を伝達。移転を拒んだ市に対する「兵糧攻め」はトップ交代で決着し、混乱した市政が動きだした。

 市は移転を想定し、同年10月に43項目の安心安全対策、09年3月に地域振興策を国に要望。基地関連の交付金と補助金を活用した各種事業をハード、ソフト両面で進め、在日米軍再編への理解と協力による「成果」を積み上げていった。

 「基地との共存」―。14年12月に策定した市総合計画(15~22年度)に初めて盛り込んだ概念は、国と米軍との協調路線をより鮮明にした。

 一方、米軍再編の動きは別の問題も生んだ。岩国基地の西約3キロにある愛宕山地区では、基地の滑走路沖合移設への土砂提供と連動し、山口県と市が連携してニュータウンを造る計画だった。しかし地価下落などを理由に事業を廃止し、土地を国に売却。代わりに艦載機移転に伴う米軍家族住宅262戸が7月末にも完成し、事実上の基地拡張に至る。

不信今も拭えず

 元地権者を含む住民たちは「愛宕山を守る会」を結成し、反対運動は国との法廷闘争に発展した。16年11月に住民敗訴が確定したが、原告団長を務めた守る会の岡村寛世話人代表(73)は「行政にだまされた」との不信感を今も拭えない。

 岩国基地の周辺住民654人が国を相手取った岩国爆音訴訟は今月、広島高裁で控訴審が始まった。15年10月の一審判決は、騒音被害を「違法」と認定し、艦載機の移転でさらなる悪化を推認している。移転に伴い1万人を超える米軍関係者の事件事故対策などの課題も残されたままだ。

 「国の安全保障政策には協力する立場だが、自治体の責務は住民の安心安全を確保し、良好な生活環境を維持することが第一」。福田市長は移転容認表明前、そうも述べていた。しかし、その「安心安全」への道筋は見通せていない。(松本恭治)=おわり

【米空母艦載機の岩国移転に絡む2007~17年の主な動き】

2007年
   1月 防衛施設庁(当時)が岩国市の愛宕山開発事業地を米軍住宅の有力な       候補地と山口県に説明
   6月 市と県が愛宕山開発事業の中止で合意
  08年
   2月 出直し市長選で、艦載機移転容認派が推す福田良彦氏が初当選
   3月 福田市長と県知事が石破茂防衛相を訪ね、在日米軍再編に「理解と協       力」を示す。石破防衛相は市への再編交付金の支給と市庁舎建設補助       金の交付を伝達
   7月 愛宕山周辺住民たちが米軍住宅化に反対する「愛宕山を守る会」を結       成
  10月 福田市長が艦載機移転を想定した43項目の安心安全対策の要望書を       国へ提出
  09年
   3月 岩国基地の周辺住民が、艦載機移転差し止めや騒音被害の損害賠償を       国に求め山口地裁岩国支部に提訴▽福田市長が艦載機移転に伴う地域       振興策の要望書を国へ提出
  14年
   5月 中国四国防衛局が愛宕山地区で米軍住宅と運動施設の造成工事に着手
   7月 KC130空中給油機の岩国移転開始
  12月 市が15~22年度の市総合計画で「基地との共存」を掲げる
  15年
  10月 岩国爆音訴訟判決で山口地裁岩国支部が、過去の騒音被害に限り約5       億5800万円の支払いを命じる
  17年
   6月 岩国爆音訴訟の控訴審が広島高裁で始まる

(2017年6月30日朝刊掲載)

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