×

ニュース

[インサイド] 早期着工へ地ならしか 中電、原発新増設を期待

 上関原発(山口県上関町)の建設予定地で30日、ボーリング調査を始めた中国電力は、その目的を「将来を見据え、地質のデータを補強するため」と説明し、以前からの流れであることを強調する。一方で、今年に入り、上関への意欲を重ねて示している。政府が年内にも原発新増設を容認する可能性を見越し、早期着工へ向けた地ならしをしたい、との思惑ものぞく。(境信重、山本和明、井上龍太郎)

■調査の位置付け

 午前10時50分ごろ、掘削用の装置が稼働して調査が始まった。直前には、調査に反対する市民が予定地へと続く町道をふさぎ、抗議する動きもあった。

 今回の調査は地下約250メートルの試料を採取。断層の動きで破壊された跡がないかを確かめ、活動性を評価する。中電はこれまで予定地の断層を「耐震設計に考慮すべき活断層ではない」としてきた。再度データを補強したい考えだ。

 なぜデータを充実させる必要があるのか。中電は2009年、原子炉設置許可を経済産業省に申請。翌10年に、旧原子力安全・保安院から地質の追加調査を求められた。しかし11年3月の東京電力福島第1原発事故で審査基準が一変し、より厳格な断層の評価が必要になった。

 今回の調査には、原子炉設置許可を巡る今後の審査が念頭にある。09年の申請内容では新規制基準に適合するのは難しい。内容を変更するか、新たに原子力規制委員会に申請し直す必要がある。将来の安全審査に活用する方針だ。

■なぜ今か

 福島第1原発事故を受け、上関原発の準備工事や国の審査は止まったまま。なぜ今、中電はボーリング調査へ動いたのか。

 「原発依存度を可能な限り低減する」とする国のエネルギー基本計画は今年、見直しの検討時期に当たる。政府が示す30年の電源構成で、原発の比率は20~22%。原発の運転を原則40年とするルールを厳格に適用すれば達成できない。このため電力業界には「新たな基本計画で原発の新増設が明記される可能性がある」との見方がある。

 中電の清水希茂社長は4月の決算会見で「原子力の新増設やリプレース(建て替え)の議論を深め、前向きな結論が得られることを期待する」と強調。上関原発について「早く着工という形になれば」と述べた。

 今回の調査は、電力の安定供給や技術伝承を目的に原発の新増設へと国がかじを切るのを見越し、着工への意志をあらためて示す狙いがあるとみられる。

■今後の課題

 政府が新増設を容認したとしても、道のりは険しい。新増設の原発を原子力規制委が審査する「基準」自体がないためだ。規制委は、既存の原発の再稼働に新規制基準で審査しているが「これから新設する原発は対象外」としている。

 新たな基準をクリアしても事故のリスクは依然残る。上関原発の予定地から80キロ圏には、人口が集中する広島市中心部が入る。深刻な事故が起きた場合の住民の避難や安全確保も十分とはいえない。

 また、人口減などで電力需要が先細りする中、新たな原発が本当に必要なのか異論も多い。

 福島第1原発の事故後、多くの国民は原発に厳しい目を向け、原発の安全性に疑問を投げ掛けてきた。電力会社は、二酸化炭素の排出削減や、火力発電所の燃料費が高いことなどから原発の必要性を主張する。

 今回の調査について、九州大の吉岡斉教授(科学史)は「(ほぼ完成している)島根3号機もあり、中電は電力の供給力に困っていない。なぜ上関の計画を進める必要があるのか説明が要る」と指摘する。

(2017年7月1日朝刊掲載)

年別アーカイブ