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社説・コラム

社説 東電元会長ら初公判 事故の責任 徹底追及を

 2011年3月に起きた東京電力福島第1原発事故を巡り、業務上過失致死傷罪で強制起訴された勝俣恒久元会長ら旧経営陣3人の初公判が、きのう東京地裁であった。

 なぜ事故は防げなかったのか、防ぐ責任は誰にあったのか。発生から6年余りたった今もあいまいなままだ。その法的な責任を問う裁判がようやく始まったといえる。

 検察が2度にわたって不起訴にしながら、検察審査会は強制起訴の結論を出した。その背景には、今も2万人以上に避難指示が出されたままの事故でありながら、誰一人責任を問われていないことに疑念を抱く市民感情があるのは間違いなかろう。

 徹底した審理で、過酷事故に至った経緯をつまびらかに検証し、責任の所在を明らかにしてほしい。

 裁判では主に二つの争点がある。原発事故につながる巨大津波の襲来を予見できたか、事前に対策を講じていれば事故を防げたか、である。

 きのうの公判で、勝俣元会長と2人の元副社長は謝罪の言葉を述べつつも、「津波による事故は予見できなかった」ときっぱりと無罪を主張した。事故が起きる可能性が高いと知りながら安全対策を怠った「不作為」の刑事責任を問う検察官役の指定弁護士と全面的に争うことになった。

 ただ、3被告の有罪立証に向けたハードルは高い。刑事裁判で過失があったと認定するには、漠然とした危惧だけでは十分ではない。具体的に事故の危険性を認識していたかなどを証明しなければならない。

 今回の裁判では、地震による津波のリスクが東電社内でどう議論され、3被告に伝わっていたかについて証拠を示して立証しなければならない。

 一方で、国会や政府による事故調査委員会が報告書をまとめたものの、聴取記録など非開示となった調書や資料も多かった。公判を通じて新たな事実が明らかになるかも注目される。

 ポイントになるのは、東電が震災前の08年にまとめた津波の高さに関する試算だ。政府機関の長期評価を踏まえ、最大15・7メートルの津波が福島第1原発に襲来すると予測していた。

 元副社長の一人は、この試算の報告を受け、防潮堤設置の検討を指示したことを民事訴訟で認めている。検察の調べに、もう一人の元副社長も報告を受けたとしたが、勝俣元会長は「報告を受けていない」と証言している。重要設備の浸水対策も検討されたが、結局対策は講じられなかったという。

 事故の可能性を示す試算結果を得ながら、すぐ対策に乗り出さず、事実上先送りした経緯が焦点になってこよう。結果の深刻さから、原発には「万が一」の大災害に備え、より高い注意義務が求められるのは当然だ。

 自然災害が引き金になった原発事故の過失責任を問うのは、相当難しい作業となるはずだ。ただ、個人の責任を問うことだけが、今回の裁判に求められている役割ではないだろう。

 事故を防ぐには、いつ、誰が、どんな判断をすべきだったのか。組織における意思決定の過程を検証し、教訓につなげる必要がある。事故当事者である東電と3被告にも真相解明に協力する責務がある。

(2017年7月1日朝刊掲載)

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