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社説・コラム

『潮流』 閉じないサイクル

■論説副主幹 宮崎智三

 四半世紀以上も前に、閉鎖が決まって運転が止まったばかりの工場を取材したことがある。案内してくれたスタッフの冷めた態度は、仕事を失って茫然(ぼうぜん)自失だったからかもしれない。ドイツに行ったついでに立ち寄った使用済み核燃料の再処理工場が今も印象に残っている。

 そんな士気の上がらない人を思い出したのは、茨城県大洗町の日本原子力研究開発機構で起きた被曝(ひばく)事故がきっかけだった。放射性物質が入ったビニールバッグの破裂が原因だが、背景には作業手順や職員教育のずさんさがある。機構が茨城県に出した報告書でも組織や職員の意識の問題は「改めて手を入れなければならない」と指摘している。

 機構が担当していた高速増殖炉原型炉「もんじゅ」が成果を上げないまま廃炉が決まるなどで、士気が下がっていたとの見方もある。そうだとしても放置はできまい。機構は法律で、高速増殖炉だけではなく、原発の使用済み核燃料の再処理や高レベル放射性廃棄物の処分などの技術開発を担うことになっている。どれも重要だが、非常に困難な上、政府の描く核燃料サイクルという夢の「環(わ)」実現には欠かせないパーツだ。

 ところが、機構は1995年、もんじゅでナトリウム漏れを起こすなど何度もレッドカードを食らい、組織変更を強いられてきた。さらに今回の事故である。当初発表されたほど高いレベルの内部被曝ではなかったとはいえ、どんなに甘く見てもイエローカードにはなるだろう。

 そんな組織に、例えば高レベル廃棄物処分の技術開発を任せられるのか。何せ原子力規制委員会から、もんじゅの運営主体として「不適格」と判断された。とはいえ代わりの組織も見当たらない。ここはいっそ、環のつながらない核燃料サイクルをいつまでも夢見るより、環そのものを閉じるべき時ではないか。

(2017年7月1日朝刊掲載)

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